研究課題/領域番号 |
17K01830
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研究機関 | 桃山学院大学 |
研究代表者 |
高橋 ひとみ 桃山学院大学, 法学部, 教授 (40149787)
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研究分担者 |
衞藤 隆 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 名誉教授 (20143464)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ICT教育 / タブレット端末 / 遠見視力 / 近見視力 / 学習能率 / 感受性期 / 弱視 / 視力検査可能率 |
研究実績の概要 |
ICT教育の推進により、学校ではタブレット端末を使った授業が始まり、子どもがIT機器に接する時間は増加する。今後、教育現場において視覚情報を得るためには、「黒板の文字を判読できる」遠見視力に加え、「タブレット画面の文字を判読できる」近見視力が必要不可欠な視力になる。しかし、学校健康診断の項目として実施されているのは、遠見視力検査のみである。 近業(タブレット操作など)時には、網膜上に焦点を合わせるために調節負荷を増大させ、遠くを見るときよりも「より大きな調節力」を必要とするので眼疲労の原因になる。「視力の問題」なのに、「能力がない・努力が足りない」等と誤解され、学習意欲が低下し、知的関心を失っていく「近見視力不良の子ども」の存在が懸念される。すべての子どもが公平に学習の機会を与えられるべきであり、そのためには、学校の定期健康診断において遠見視力検査に加えて近見視力検査を実施する必要がある。 また、学校で視力不良を発見しても、弱視になっていると矯正視力は期待できない。ヒトの視覚には感受性期があり、生後3ヶ月~1歳6ヶ月頃をピークとし、8歳頃には終了する。感受性期に、視力・両眼視機能の発達を阻害する眼異常があると、視覚の発達は遅れたり、停止したりする。感受性期に発達を阻害する要因を発見し、治療を行なえば、以後の正常発達は期待できる。屈折異常や弱視は診察では発見できない。自覚的視力検査が可能になるのは3歳頃である。3歳から治療を開始すれば、小学校入学までには良好な視力の獲得が可能である。しかしながら、幼児視力検査の実施率は低い。そこで、幼稚園や保育園で、3歳児でも楽しく、短時間に、正確にできる「たべたのだあれ?」視力検査を普及させ、早期発見・早期治療につなげる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「情報化社会に求められる小児期の視力検査」として、近見視力検査の導入を目指し①現行の遠見視力検査では発見できない近見視力不良者の存在と割合 ②近見視力不良者の学校生活における負担、さらに眼科学的評価として、屈折検査と調節融通性検査を行うことにより ③近見視力不良の原因を明らかにするための検証を行ってきた。その結果、近見視力不良の子どもが約16%存在し、彼らの学習能率は良くない、遠視系屈折異常や乱視・調節不良などが近見視力不良の原因である等が判明した。また、遠視系屈折異常は遠見視力検査で見逃されていることも分かった。 政府はICT教育を推進し、2020年度からタブレット端末を使った授業を行なう計画である。子どもがIT機器に接する時間は増加する。大人の場合、VDT作業による負担を軽減するための新ガイドラインを策定し、労働衛生管理を行っている。さらに、「就業の前後又は就業中に、体操、ストレッチ、リラクゼーション、軽い運動等を行うこと」を推奨している。そこで、視力低下予防のために大学生を対象に体育の授業で球技を行ない、授業前後に視力検査をした。その結果、有意に視力向上効果が認められた。本研究結果を踏まえ、IT機器を利用した授業後には、体育の授業を設定するなどの方策が考えられた。 また、「時間と手間がかかり、結果に信憑性がない」として、実施率が低い幼児視力検査の普及を目指し、楽しみながら短時間に正確にできる「たべたのだあれ?」視力検査を考案し、検証を重ねてきた。そして、2歳児でも約90%がランドルト環の視力検査が可能であることを実証した。幼稚園や保育園の視力検査で、眼異常(先天白内障・黄斑分離症、遠視・乱視など)を発見し、感受性期に治療を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
情報化社会を迎えた今日、VDT学習が行き渡り、学習形態は変化してきた。学校教育を円滑に進めるには、「黒板の文字を判読できる」遠見視力と「教科書やコンピュータ画面の文字を判読できる」近見視力が必要不可欠な視力である。しかし、学校健康診断の項目として実施されているのは、遠見視力検査のみである。遠見視力検査が行われるようになってから約140年が経過しており、その意義と有効性は一応確立しているが、近業のための視力を評価する方法としては十分ではない。「近見視力検査の意義と有効性」を明らかにすることにより、学校保健安全法を改正し、学校健康診断に近見視力検査を導入することを目指す。そのために、教育現場で近見視力検査を実施し、①近見視力不良の子どもの救済 ②現行の遠見視力検査では発見できない近見視力不良の子どもの存在 ③近見視力不良の子どもが有する負担 ④近見視力を損なう屈折異常の種類を明らかにしながら ⑤スクリーニングとしての近見視力検査の方法を確立・普及させる。 また、高橋が考案した「たべたのだあれ?」視力検査は、絵本でランドルト環に慣れてから、「たべたのだあれ?」クイズ遊びとして視力検査を行なう。絵本は、日本眼科医会と日本小児科医会の推薦を受けている。この方法なら「3歳児でも楽しみながら集中して視力検査ができる」ことを実証してきた。法律で規定されているにもかかわらず実施率が低い幼稚園・保育園・認定子ども園に普及させる。 幼児の視力検査の実施率を上げ、感受性期に視力不良を発見し、早期に治療を開始すれば、小学校入学までには良好な視力の獲得が可能であり、入学時の視力不良者の頻度を下げることができる。三歳児健康診査会場や幼稚園・保育園において視力検査を受けた子どもの追跡調査(就学時健康診断と小学校入学後の視力検査)を実施し、弱視者の減少を検証する。そして、幼児視力検査実施の重要性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
「たべたのだあれ?」視力検査実施予定の幼稚園がインフルエンザのために休園になり視力検査が中止になった。そのために、視力検査に使用する検査キットと絵本の購入を延期した。 また、「たべたのだあれ?」視力検査の感度・特異度・精度の確認のために、眼科医療機関において、視力検査受検園児(全員)の屈折検査と眼位検査をする予定であったが、これも中止したために残額が出た。2018年度に、予定通りに視力検査を行ない、予算を消化予定である。
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