2019年度の研究対象者は、20代成人9名 (男性7名、女性2名) とした。森林散策は新庄村、岡山県立森林公園、都市散策は岡山駅周辺で行った。散策時間は2時間程度であった。本年度では以下の結果が得られた。 ①都市散策前に比べ、散策後・一週間後の尿中過酸化水素濃度は有意な上昇が見られたが、森林環境での散策後は尿中過酸化水素は統計学的に有意な変動が認められなかった。②尿中8-OHdGレベルは森林・都市散策前・後・一週間後ともに有意な変動は見られなかった。③尿中DT濃度は新庄村と岡山県立森林公園での森林散策後において減少傾向が見られたのに対し、都市散策後では増加傾向が見られたことから、森林散策後に体内でのOH・によるタンパク質の酸化が緩和されている可能性が示唆された。④尿中HELについては、散策前の尿中HEL濃度が中央値よりも高い者を高値群、低い者を低値群として分けて解析したところ、高値群では新庄村散策後には有意に低下し、都市散策後には有意に上昇したことが明らかとなった。このことから短時間でも森林環境に滞在することで生体内の脂質過酸化の初期生成物の減少に寄与するのではないかと推測される。⑤血圧については、最高血圧が135mmHg以上あった一部の対象者では、森林散策前に比べて散策後で15mmHg以上の減少が見られた。⑥散策環境の主観影響を評価するためSD法を用いた。森林環境では「開放的な」、「自然な」、「ゆったりした」などのポジティブ寄りの評価が目立った。一方、都市環境では「不自然な」、「こみこみした」、「うるさい」などのネガティブ寄りの評価が特徴的であった。⑦118種類の植物から抽出されたフィトンチッド抽出液を用いて抗酸化能を分析した結果、高いDPPHラジカル消去活性を有しているが、酸素ラジカル吸収能は弱いことが明らかになった。
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