研究課題
初年度である平成29年度は、糖尿病の脳における細胞障害マーカーの同定、糖尿病の脳におけるNrf2活性化機構の同定を予定して研究に取り組んだ。(1) 糖尿病の脳における細胞障害マーカーの同定:過去の報告から、病理学的評価により糖尿病における脳神経細胞障害を捉えるのは困難であることが予想されることから、脳神経細胞障害マーカーの同定を目指した。イメージング質量分析装置を用いた解析により、糖尿病モデルIns2Akita/+マウスの脳におけるの脂質分布を解析した。その結果、Ins2Akita/+マウスの大脳皮質で、野生型と比較して一部のホスファチジルコリンで、含有量の低下を認めた。(2) 糖尿病の脳におけるNrf2活性化機構:脳におけるNrf2活性化の程度は、他の臓器と比較して弱いと考えられている、このため、Ins2Akita/+マウスと、Keap1遺伝子発現低下に伴うNrf2活性化モデルであるKeap1floxA/-マウスを交配し、Nrf2活性化糖尿病モデルIns2Akita/+::Keap1floxA/-マウスを作出した。Ins2Akita/+::Keap1floxA/-マウスの脳における、代表的なNrf2標的遺伝子であるNqo1 mRNA発現量を調べたところ、対象群であるIns2Akita/+::Keap1floxA/+マウスの脳と比較して、Ins2Akita/+::Keap1floxA/-マウスの脳ではNqo1 mRNAの大幅な発現増加を認めた。
2: おおむね順調に進展している
Ins2Akita/+マウスの脳におけるイメージング質量分析を行い、大脳皮質における脂質の含有量につてい解析し、糖尿病の脳において変化する脂質を同定した。また、脳におけるNrf2活性化の程度は、Nrf2活性化糖尿病モデルIns2Akita/+::Keap1floxA/-マウスの脳における、Nrf2活性化は強いことを確認できた。以上から、当初の研究計画と比較して、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
糖尿病モデルマウスの脳で変化する脂質として、ホスファチジルコリンの一部を同定したものの、その変化は大きものではなかった。このため、アルツハイマー病モデルマウスと糖尿病モデルマウスの複合マウスの脳でさらに大きく変化する代謝物を見出す必要があると考えられた。また、脳におけるNrf2活性化については、Nrf2活性化糖尿病モデルで特に大きくNrf2標的遺伝子発現が誘導することを確認したが、将来の臨床応用を考えると、Nrf2活性化剤でも同様の傾向が得られるのかを確認する必要があると考えられた。
次年度は、アルツハイマー病および糖尿病モデルの複合変異マウスの解析を予定したことから、予算規模を大きく確保する必要が生じたため。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
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10.1016/j.ejphar.2017.02.044.
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