食生活の偏りや生活習慣の変化が原因となって起こる肥満は免疫系に変化を起こし、感染症を誘発しやすくなると考えられているが、白色脂肪細胞が産生する抗菌物質は感染防御能に寄与するという報告もあり、感染防御に肥満が及ぼす影響は不明確である。そこで、高脂肪食を与えたマウスに偏性嫌気性菌のバクテロイデス・フラジリスを腹腔内投与し、菌の排除や内臓脂肪組織の抗菌物質遺伝子発現、および腹腔内の免疫細胞の変化を調べた。普通食投与マウス、および高脂肪食を4か月間与えて体重が普通食投与マウスの約1.4倍に増加した肥満マウスにフラジリス菌 1.5 x 10^10 colony forming unit (CFU) を投与し、1日後に腹腔内の菌数を測定した。その結果、高脂肪食投与マウスからは2.1 x 10^6 CFU、普通食投与マウスからは4.6 x 10^5 CFUの菌が検出され、肥満マウスでは菌の排除が劣っていると考えられた。これらのマウスから内臓脂肪組織を回収し、抗菌ペプチドCathelicidin antimicrobial peptide(CAMP)の遺伝子発現を調べたところ、高脂肪食投与マウスの方が8.4倍以上高いことが分かった。また、ケモカインのCCL2およびCXCL2の遺伝子発現も高脂肪食投与群で2.5~3.3倍高いことが分かった。これらのマウスの腹腔内細胞の数および種類をフローサイトメーターで調べたところ、細胞数は高脂肪食投与マウスで1.4~2.3倍高いことが分かった。腹腔内細胞に占めるマクロファージ、樹状細胞、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、およびB細胞の割合は群間で差が見られなかったが、好中球は高脂肪食投与群で増加する傾向が見られた。これらの結果は、フラジリス菌を用いた腹腔内感染モデルにおいては脂肪組織のCAMPの発現が菌の排除に影響を与えない可能性を示唆するものであった。
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