研究課題
現在、わが国では心疾患や脳血管疾患などの血管障害に起因する疾患が主流となっている。血管の内層を覆う内皮細胞の障害は、動脈硬化の進展過程における最初の血管障害であり、病変の進行を阻止する上でその早期発見が重要である。本研究は、動的運動時の循環血流の増大に伴う血管壁の応答を中心動脈圧の波形パターンから捉えることで、血管の微少炎症や内皮機能低下を検出する新しい評価法を開発することを目指すものである。まず、運動負荷時の中心動脈圧波形の変化と動脈硬化および血管障害のマーカーとの関連を分析し、血管機能評価法としての有効性を検討した。中年層の男性を対象とした検討から、高血圧、脂質異常、耐糖能障害が重複する者、喫煙量が多い者では、安静時には明確な差がみられないものの、運動中には中心動脈圧の反射波成分が顕著に上昇し、終了後も回復が遅延していた。よって、血管障害を誘く危険因子の曝露が、運動誘発性に起こる血管拡張反応を低下させるとともに、その変化が中心動脈圧波形に反映されることが確認された。また、運動中の平均動脈圧は、上腕-足首間脈波伝播速度(血管硬化度)、微量アルブミン尿(血管内皮機能障害)、高感度CRP(血管炎症)などと有意な相関を示したことから、中心動脈圧波形から血管の微小炎症や内皮障害を検出可能であることが示された。続いて、これらの基礎的研究の成果をふまえ、集団健診などの多集団のスクリーニングに適用できる簡便な検査法の開発を試みた。一般住民からなる地域疫学研究の参加者を対象に検討したところ、軽強度で負担の少ない簡易なステップテストでも性差や年齢差、危険因子の有無に応じた波形の特徴を捉えられることが明らかになった。さらに、中心動脈圧の反射波成分の指標は、男女差を伴いながら加齢とともに直線的に上昇することが示され、これに基づいて性別・年齢階層別の暫定的な評価基準値を作成した。
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Circulation Reports
巻: 3 ページ: 620-624
10.1253/circrep.CR-21-0064