研究課題/領域番号 |
17K01862
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
齋藤 靖和 県立広島大学, 生命環境学部, 教授 (90405514)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞老化 / 酸化ストレス / 活性酸素 / SASP / 紫外線 / ストレス防御 / 線維芽細胞 / スチルベノイド |
研究実績の概要 |
我々の体を構成する細胞の一部は加齢に伴い老化し、老化細胞として体内に蓄積・共存していくといわれており、この老化細胞の蓄積は様々な疾患にも関与していると考えられている。我々は、これまでに細胞老化に伴い細胞の性質が大きく変わることを見出し、従来の形態学的な変化に加え、若い(非老化)細胞と老化細胞へのビタミンC取り込み能が異なることなどを報告してきた。また、これまでの一連の研究から、細胞老化に伴いストレスなどの外的因子に対する細胞の感受性が変容し、ストレスから細胞を防御する化合物の有効性も変わるのではないかという仮説を立てた。そこで本研究では、細胞老化がストレス抵抗性に与える影響の解析を行い、老化細胞の特性をより詳細に解析することを目標としている。3ヶ年計画の2年目にあたるH30年度には、計画通り①酸化ストレス以外のストレスとの関連性および②老化細胞において優れた抗ストレス効果を示す物質の探索について研究を進めた。①については、光老化に関わるストレスとして紫外線に着目し、細胞老化がヒト線維芽細胞NB1RGBの機能および紫外線A波(UVA)照射後応答に与える影響について検討を行い、細胞の老化度によりUVA照射による細胞応答性が異なる可能性を見出した。また、細胞老化随伴分泌現象(Senescence- Associated Secretory Phenotype: SASP)が非老化細胞に与える影響についても検討を行い、老化細胞が非老化細胞の細胞老化を進展・促進させる可能性も見出した。さらに②については、非老化細胞および老化細胞におけるtert-butyl hydroperoxide誘導性酸化ストレス傷害に対する防御因子についてスチルベノイドを中心に検討を進め、これまで、一部のスチルベノイド類が優れた防御効果を示すデータを蓄積しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、細胞老化に伴うストレス抵抗性変化の特徴を明らかにすると共に、老化細胞のストレス防御に適した化合物を探索することを目的に①細胞老化に伴う酸化ストレス抵抗性の変化、②酸化ストレス以外のストレスに対する抵抗性の変化、③老化細胞に有効なストレス防御物質の探索の3点について検討することを最終目的としている。 昨年度までに明らかにしてきた“細胞に伴う酸化ストレス抵抗性の変化”のデータも参考にしながら、H30年度は「酸化ストレス以外のストレスとの関連性」について検討を進め、ヒト由来線維芽細胞であるNB1RGBの非老化細胞と老化細胞のUVA刺激後の応答性についてリアルタイムPCRによる解析を行った。その結果、UVAに対する応答性は細胞老化によって影響を受けること、特に皮膚の構造やその維持に関わる遺伝子の発現変化が異なっていることを見出し、細胞の老化度によってストレスの影響が異なることを裏付けるデータを得た。また、SASPが非老化細胞に与える影響についても検討を行い、老化細胞が非老化細胞の細胞老化を誘発し、老化をさらに進展させるという負の連鎖を生み出している可能性も見出した。次に、ヒト由来線維芽細胞TIG-1細胞を用いて、「老化細胞において優れた抗ストレス効果を示す物質の探索」に関する検討を進めた。現在までに、非老化細胞および老化細胞におけるtert-butyl hydroperoxide誘導性酸化ストレス傷害に対する防御因子について抗酸化物質やスチルベノイドを中心に検討を進め、一部のスチルベノイド類が優れた防御効果を示すデータを蓄積しつつある。一方、昨年度の報告書にも記載したブルーライトによる細胞傷害モデルについては、現有装置の改良により実施の可能性が判明したため、昨年に引き続き予備検討から実施しているが、現段階では十分な細胞傷害性を示す条件の確立に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、“酸化ストレス抵抗性の変化だけでなくその他のストレスに対する抵抗性の変化について検証すると共に、老化細胞において優れた抗ストレス効果を発揮する化合物を探索する”という当初の計画に従って、以下の研究を推進していく予定である。 ①酸化ストレス以外のストレスとの関連性 老化に関連するストレスとして、スマートフォンやPCからも出ている身近な光であるブルーライト(400-495 nm)に着目し、検討を行う。酸化ストレスに対する影響も含めたこれまでの一連の研究結果から、老化に伴うストレス抵抗性と老化の相関性について体系的かつ包括的な解析を行う ②老化細胞において優れた抗ストレス効果を示す物質の探索 酸化ストレスによる細胞傷害を抑制する化合物については、既に多くの報告があり、申請者らも既に様々な物質による防御効果を報告してきたが、細胞老化とその防御効果の関連性については明らかにされていない。そこで、これまでに申請者らが各種ストレス抑制効果を確認してきた、あるいはその報告がある物質、抗老化作用が報告されている物質、また、その作用が比較的温和であり、健常人へも適用が可能な食品由来の化合物、化粧品、医薬部外品などに使用実績のある既存有効成分に着目し、老化細胞におけるストレス防御効果を調べると共に、若い細胞における効果との違いについて検討する。現在既に着手しているスチルベノイドなどのファイトアレキシン系化合物を中心に検討を進め、有効性が高い化合物については既知のメカニズムを参考に老化細胞におけるその作用機序について解明を行う。さらに、近年、細胞老化の分野で注目されている新しい概念であるsenolysis(老化細胞の特異的除去)作用にも着目した研究にも着手していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
決定された研究予算枠の中で実施計画を再度練り直し、ヒト線維芽細胞での検討を中心として実施するように研究計画を一部軌道修正した。また、キャンペーンを利用して必要試薬をまとめて購入するなど効率的な使用を行ったことにより次年度使用額が生じた。生じた次年度使用額については、老若細胞間でのストレス抵抗性メカニズム解明のための発現遺伝子解析や細胞の生理機能評価・解析などに使用する予定である。
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