研究課題/領域番号 |
17K01864
|
研究機関 | 北翔大学 |
研究代表者 |
小坂井 留美 北翔大学, 生涯スポーツ学部, 教授 (20393168)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 幼少期 / 家庭環境 / ライフヒストリー / テキストマイニング / 高年齢者 |
研究実績の概要 |
本研究は,北海道の在宅高年齢者を対象としたライフヒストリー調査,及びこれを基にした疫学的検証から,幼少期の家庭環境と高齢期の心身の健康との関連を明らかにすることを目的としている.今年度は,蓄積された高齢女性のインタビューデータの分析,都市部高齢男性の新規インタビューを加えた分析による発言特性に関する検討を行った.再インタビューおよび疫学調査に向けた予備調査も実施した. 1. 高齢女性の幼少期の遊びに関する語りの特性:80歳代女性27名(84.6±3.0歳)を分析焦点者とした幼少期の「遊び」の語に関連するテキスト定量分析により,298文章を抽出し定性的に検討した.関わる人や場所の語の検討から,高齢女性の幼少期の遊びについて,活発に遊ぶことを特別な気質と捉えていた,自然や日常活動の中に遊びを見出していた,手伝いが忙しく遊べなかった等の語りが特徴づけられた. 2. 高齢男性の仕事経験と退職後の社会参加の関連:都市部と過疎地域の80歳以上男性9名(85.6±4.7歳)のライフヒストリーについての定性的検討から,幼少期に親しんだ体験が退職後のボランティア活動につながった,幼少期から働きづめだったため退職後の余暇は自分や家族のねぎらいに使う等の語りや,仕事での充実感や達成感が大きい人で,退職後も地域の役職につき活動する特徴も見いだした.幼少期の体験や仕事との関わりが,退職後の社会参加において活動の選択に関わる可能性を示した. 3. 予備調査:ライフヒストリーインタビューを行った高年齢者94名に,約4年後の健康状態の確認を行った.回答率は60名(63.8%)であった.健康関連QOL(SF36)による主観的健康度は61.6±20.6であった.疫学調査に向けては,都市部と過疎地域の老人福祉センター利用者287名について健康状態や社会活動状況に関する調査を完了した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目に当たる今年度は,北海道A市在住の高齢者94名についてのライフヒストリーデータから高齢女性を分析焦点者として,家庭・家族に関するストーリーや用語の抽出をすすめるとともに,追加インタビュー調査の準備として,協力依頼と現在の健康・生活状況の確認を行うことを計画した.また疫学的検討にむけては,ライフヒストリー調査対象地域での継続的な健康状態・生活習慣調査および体力測定の実施と新規の地域での調査も開始した. 昨年度男性を分析焦点者とした検討において,同意でも様々な表現のあること,他人の話との区別が容易でないことから,意味の確認にインタビュー全体のデータに戻る作業を繰り返した.本作業は,女性においても同様であり,テキスト分析には多大な時間が必要であった.女性の語りの特徴として,感性が豊かといえる表現があり,定性的分析での視点や表現の評価についてさらに丁寧な検討が必要と考えられた. テキスト分析では,分析・考察に時間を要し焦点の明確化を引き続き行っていく必要はあるが,予定の分析焦点者でのライフヒストリーデータ分析および追跡インタビュー調査の準備が進められたため,研究の進捗としては概ね計画通りと評価した.
|
今後の研究の推進方策 |
申請時の計画から変更なく研究を進める.2019年度は,これまでに行ったライフヒストリーインタビューの家庭・家族に関する基礎的検討をすすめ,本テキスト分析の結果と健康状態・生活状況追跡調査の結果に基づいて分析焦点者を選出し,追加インタビュー調査を行う. 2020年度は,追加インタビューデータのテキスト化と家庭の役割の理解に向けた定性的検討,テキストデータマイニングを用いた要素の抽出と関係性の検討を行う. 最終年度では,インタビューデータのテキスト分析を基に高齢期の健康を予測する因子としての幼少期の家庭・家族要因の質問項目作成し,本質問項目を用いた地域住民調査とその分析による検証を進める.
|
次年度使用額が生じた理由 |
計画した費目に適切に支出しており,大きな支出内容の変更はなかった.インタビューとそのテキスト化委託料・調査補助者人件費に予定した金額の使用が下回ったが,次年度の研究活動は追加インタビューデータの取得とテキスト化が中心となるため,インタビュー調査およびテキスト起こしに多くの支出が見込まれる.前年度の繰越金は,次年度中で使用していく計画である.
|