研究課題/領域番号 |
17K01864
|
研究機関 | 北翔大学 |
研究代表者 |
小坂井 留美 北翔大学, 生涯スポーツ学部, 教授 (20393168)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 幼少期 / 家庭環境 / ライフヒストリー / テキストマイニング / 高年齢者 |
研究実績の概要 |
今年度は, 昨年度実施したCOVID-19禍での生活に関する追加調査の分析を進め,COVID-19禍での体調変化の有無による生活状況や約6.5年前の心身特性について検討した.また対象地域の高齢者特性の把握に向けて要介護認定状況を検討した.主な結果を以下に記す. ・COVID-19禍での体調変化では,ゆううつ感の増加が特徴的であったため,ゆううつ感が増加した人(増加群)と変化のなかった人(維持群)による分析を行った.COVID-19禍以前の心身状況では,増加群はCES-Dで抑うつ傾向をみとめた人数割合が,維持群に比べ有意に高く(40.0% vs. 3.5%,p=0.011),健康関連QOL(SF-36)の体の痛み(65.7±24.5 vs. 84.4±17.6,p=0.031)や活力(60.6±21.1 vs. 77.7±14.9,p=0.053)得点は,維持群に比べ有意に低値か低値傾向であった.抑うつ傾向,体の痛み,疲労感は,災禍での不調に関連することが示された. ・COVID-19禍での前向きな変化を捉える「新しく始めた活動や習慣がある」の項目や,過去の経験の反映を捉える「過去に今より大変な時代があった」と回答した人は,有意ではなかったものの維持群で多い傾向であった.幼少期の苦境の振り返りが高齢期の災禍での生活に関連する可能性を伺わせた. ・対象地域の要介護認定状況について,厚生労働省介護保険状況報告を用いた検討から近年要支援1の動向に特徴がみられること(2018年頃からの増加傾向),約5年間の追跡調査から要介護認定の発生に移動要因が関与する可能性を示した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は,COVID-19に対する活動制限の緩和が進んだものの,地域における疫学的検討に向けた追加インタビュー調査や対象地域での健康状態・生活習慣調査は依然実現が困難であった.対象地域で蓄積したデータの解析や高齢期の健康に関わる分析を進め知見を得たが,引き続き本調査実施に至らなかったことから研究の進捗としては「遅れている」と評価した. 昨年取り入れたCOVID-19禍のような災禍への適応に着目した検討からは,COVID-19禍以前の心身状況において,高齢者の代表的な心理症状であるうつや,フレイルの評価指標にも含まれる活力など高齢期の特徴的な健康課題の指標が,COVID-19禍での不調増加に関連することを示すことができた.本結果は,高齢者の健康づくりに関わる指標を把握する重要性を示したといえる.体の痛みとの関連では,質問への未回答者との比較も行い未回答者では体の痛み得点がさらに低い結果も得た.今後の調査において体の痛みによる生活活動の妨げは注目すべき項目であった. 昨年度明らかになったCOVID-19禍の過去の経験に照らした振り返りの有無が,COVID-19禍での不調に関連することを示したことは,過去の経験の反映を高齢者一般の強みとした昨年の考察を一歩前進させ,幼少期の苦境を現在に反映できていることが,災禍の影響の軽減に関連することを示唆するものと考えられた. 直接的な調査が困難な中,厚生労働省介護保険状況報告から対象地域の高齢者の動向を把握することも試みた.本研究のアウトカムにあたる高齢期の健康や自立度において,分析の視点を加えることができた.
|
今後の研究の推進方策 |
COVID-19禍の影響で研究期間を延長せざるおえず,研究体制の維持が課題の一つになっている.研究を受け入れる行政側の体制の変更に向けて対応が必要となり,研究進捗を説明する機会などを設け次年度以降も研究を継続する調整を行った.対象者においては,異動があるものの行政の協力や定期的な郵送による連絡で概ね状況の把握はできているが,今後も研究継続に向けて行政担当者や対象地域住民の方々の理解を得るため,一層の取り組みが必要と考えている. この上で,今後COVID-19禍における高齢者の健康や適応力も含めたテキストデータの再分析により作成した調査票を用いた調査を実施する.本データを元に因子分析および共分散構造分析等を用い,幼少期の経験を高齢期につなぐ関係性を明らかにする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
繰越金の理由は,COVID-19感染拡大の影響が続いており,調査活動が制限されたためである.次年度は,研究推進方策に沿い,調査実施に関わる諸費用,補助者人件費および研究打ち合わせや成果発表費として研究費を適切に執行していく.
|