本年度は,EMSに対する脳血管反応に性差および加齢による影響があるか否かを検討することを目的とした。しかしながら,新型コロナ感染症の影響により,高齢者の被験者のリクルートが安全面の観点から難しくなったため,若年者を対象とした性差の検討に関する実験のみを実施した。性差に関する仮説としては,女性は男性に比べて筋量が少なく,かつ速筋線維の比率が低いため、相対的な糖のエネルギー利用率が低く、運動中の乳酸値や呼吸交換比が低い。EMSの特徴は、速筋線維から優先的に動員する「逆サイズの原理」を有することである。このことは、EMSに対する代謝および脳血流反応は性差が認められる可能性が高いと考えた。具体的には「男性に比べて女性の脳血流応答は小さい」との仮説を設定した。そこで,若年男性10名,女性10名を被験者として,有酸素モードのEMS(1秒間に4 Hzの筋収縮)に対する代謝応答(酸素摂取量・二酸化炭素排出量・呼吸交換比など)と中大脳動脈血流速度を測定した。本研究の結果,EMSに対する代謝応答は男性で有意に高く,統計的な有意差が認められた。EMSに対する酸素摂取量の応答は,男性が女性に比べて約20%高値を示し,呼吸交換比は約0.5高値を示した。また,脳血流応答に関しても,男性が有意に高く(訳15%),やはり性差が認められた。この結果は,下肢の筋量の差,筋線維組成,エネルギー基質の差がEMS時の代謝反応および脳血管反応に影響している可能性を示唆するものであった。糖尿病患者などの運動処方を想定した場合,性差や加齢に伴う筋委縮による影響が顕著となる可能性も考えられる。
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