本研究では,脳卒中片麻痺患者の感覚麻痺を振動BFで補完しつつ,バランス・歩行トレーニングを効率的に遂行するための機構を案出し,実行可能性を検証した.本年度はバランストレーニングの影響を多面的に検証するために,非線形解析を導入した.実験では9名の 慢性期脳卒中片麻痺患者を対象に立位姿勢課題でBFによる1か月間の介入効果を実施した.介入では,患者は静止立位および荷重位にてBF情報に基づいて安定性を保持することを要求した.DFA:Detrended fluctuation analysisを用いてX方向, Y方向の時系列データに対してスケーリング指数(α)を算出した結果,X方向(左右)において(α)が1に近づく傾向が観察された.これは,1/fゆらぎの特徴(より複雑性が高い)から左右方向の姿勢制御が柔軟になった可能性を示唆している. 歩行トレーニングにおいては,昨年度に介入により接地時の背屈が改善しなかった理由を二重課題処理能力から実験的検討を進めた.脳卒中片麻痺患者5名に対して,振動無し・腰のみの振動・背部全体への振動を歩行時に付与し,同時に暗算の二重課題を課した.結果として,背部全体条件では計算課題が侵害され,BF使用時の認知的処理に干渉していることが分かった.さらに臨床効果を検証するために,脳卒中片麻 痺患者(介入群:6名,コントロール郡:6名)を対象として,3週間(週3回×3週)装置を用いた歩行トレーニングを適応した.今後は集団に対する振動BFの効果をコントロール群を含めて明らかにするために,現在の実験の参加者数を拡充しつつ,解析結果に基づき議論を進める.
|