研究課題
インスリン抵抗性はインスリン分泌低下の要因であり、正常血糖状態でも血管障害を惹起し糖尿病三大合併症も誘発する。しかしこれらを数値で早期診断できれば、進行度や合併症リスクを評価でき、予防や予後改善に直結する。申請者は膵β細胞の小胞体ストレスでmicro(mi)RNA発現が攪乱されインスリン分泌が低下すること、インスリン抵抗性が特定のヒト血中miRNAの発現を増加させ、インスリン分泌低下や動脈硬化に関与する可能性を見出した。そこで平成29年度は血中miRNAに注目し、以下の(1)により、糖尿病とその合併症に関わる種々の病態を迅速・高感度・低侵襲で診断できるmiRNAマーカーの開発と治療応用をめざした。(1) 2型糖尿病患者の病態と分泌型miRNA発現との相関解析による診断用miRNAマーカーの絞込と最適化平成29年度は(1)として、以下の(a)及び(b)を行った。(a)インフォームドコンセントの得られた糖尿病患者について、①血液及び尿の生化学検査により、血糖値関連及びインスリン分泌関連の各検査を行い、インスリン分泌能を推測し分類した。②眼底検査及び視力検査による糖尿病性網膜症検査と、③血液及び尿の生化学検査による糖尿病性腎症検査、④腱反射検査と知覚検査による糖尿病性神経障害検査、により糖尿病の合併症について病態を評価し、糖尿病患者を分類した。各患者について採血を行い、血清を分離して(b)のmiRNA単離・濃縮に用いた。(b)(a)で得られた糖尿病患者血清から、血清中の全分泌型miRNAを単離・濃縮した。同定済みのインスリン抵抗性特異的に発現変動する49種類のmiRNAのうち、インスリン抵抗性特異的に発現上昇しかつ発現絶対量の多い9種類に注目し、定量的RT-PCRの条件を確立した。
2: おおむね順調に進展している
糖尿病とその合併症に関わる種々の病態を迅速・高感度・低侵襲で診断できるmiRNAマーカーの開発に向け、平成29年度は、「2型糖尿病患者の病態と分泌型miRNA発現との相関解析による診断用miRNAマーカーの絞込と最適化」を行うため、主に次の2点を重点項目として研究を行った。①インフォームドコンセントを得たうえで様々な糖尿病の進行ステージにある被験者に参画いただき、生化学的・生理学的検査データからその分類をすること、②既に同定済みであったインスリン抵抗性特異的血中miRNA49種類について、その発現変動パターンや発現絶対量、予測された標的遺伝子機能等を指標に、解析に優先順位づけを行った後、定量的RT-PCRの条件を確立すること。①については、平成29年度は、糖尿病の進行ステージが進み合併症を併発している被験者に参画いただくことができたが、進行ステージが初期の被験者数が少なかった。②については、インスリン分泌低下や動脈硬化発症に関わると機能予測されたmiRNAはインスリン抵抗性特異的に血中発現量が増加し、その発現絶対量が多い傾向にあったことから、9種類のmiRNAを選抜し、定量的RT-PCRの条件が確立できた。従って、平成29年度は、被験者数に課題があるものの、おおむね順調に研究が進展していると考えられた。
平成29年度の課題は、「様々な糖尿病進行ステージにある被験者に本研究に参画いただき、生化学的・生理学的検査データからその分類をする」という重点項目について、特に糖尿病進行ステージが初期の被験者数が少なかったことである。従って、平成30年度は、インフォームドコンセントに基づき、本研究に参画いただけるよう、引き続き依頼を行っていく。被験者数確保と合わせて、より少ない血液から高感度でmiRNA定量ができるRT-PCR条件を検討するとともに、PCR増幅を伴わない高感度なmiRNA定量法の確立を行う。さらに、平成30年度は「ゼブラフィッシュを用いたインスリン分泌能と血管障害の改善効果検証」を行うが、そのための飼育条件や血管障害の評価法について、現在、確立すべく解析を進めている。
すべて 2017 その他
すべて 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
http://acoffice.jp/kmwuhp/KgApp?kyoinId=ymdegyobggy