研究実績の概要 |
脳卒中発症前の病態進行期における恒常性維持と発症後の組織修復過程において、全身循環のシグナルに反応し、骨髄ニッチ機能がどのように維持され、また劣化するかをsinusoid内皮細胞の組織学的構築について、主に免疫染色と微細形態観察によって検討した。非運動SHRSPでは、高血圧症進展に伴い骨髄血管系が占める面積の縮小とsinusoid血管網の分岐の減少、血流量の低下を認めた。またsinusoidに近接する間葉系細胞数も減少した。正常血圧Wistarラットでは、内皮細胞の細胞質が腔内へ伸びて互いに連続する一層のシートを形成しているのに対し、非運動SHRSPでは発症に伴い内皮細胞の空胞化や内皮細胞と基底板の間隙の拡大を認めた。また血中から骨髄組織へ漏出したIgG量が増加し、内皮細胞のバリアー機能の低下を示した。骨髄再構築における低酸素-HIFを介する制御機構の重要性が明らかになってきている。非運動SHRSPでは、pimonidazol陽性低酸素領域が減少し、内皮細胞および間葉系細胞のHIF1α/2αの発現と核内活性が低下していた。またHIFs誘導性のFGF2, VEGF, SDF-1のニッチ分子の産生減少、sinusoid内皮細胞のCD73, VCAM-1発現低下を認めた。一方、自発的な運動を継続させた運動SHRSPでは、sinusoidは発症後拡張したが、漏出IgG量は変化しなかった。また内皮細胞の組織学的構築とニッチ分子の産生は維持され、特に発症後のFGF2産生や内皮細胞のHIF2α, CD73, VCAM-1発現は非運動群に比し有意に増加した。BrdUのin vivo labellingでは、増殖した前駆細胞が運動群では発症後もsinusoid周囲に多数存在したのに対し、非運動群の骨髄細胞ではミトコンドリア由来ROS産生が亢進し、BrdU陽性細胞はほとんど検出されなかった。
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