研究実績の概要 |
子どもの良好な発達にとって睡眠は重要な要素である。わが国では諸外国と比較して乳幼児の就寝時刻が遅く、睡眠時間が短い傾向にあり、このような睡眠習慣、特に遅い時刻の就寝が児の神経発達に与える影響については、未だ十分な検証がなされていない。そこで本研究では、一般人口を反映した出生コホートを用いて乳児期から幼児期まで睡眠の様相と神経発達の変化を縦断的に追跡し、乳幼児期の睡眠、特に遅い時刻の就寝がその後の神経発達にどのような影響を及ぼしているかを検証した。 本研究は、浜松母と子の出生コホート(HBC study)の参加者のうち除外基準の児を除いた983人を対象とし、生後10か月から32カ月までの追跡データを用いた。児の睡眠時間と就寝時刻は生後10か月に母親への質問票を用いた聞き取りにより評価した。神経発達は生後10か月から32カ月にかけての5時点で、Mullen Scales of Early Learningを用いて児に課題を直接施行し、行動観察することで評価した。5時点の神経発達の成長(変化量)を潜在成長曲線モデルで推定し、就寝時刻と神経発達の成長との関連を調べた。その結果、就寝時刻が遅い群 (22:00以降)は標準的な群 (20:30-22:00)と比べて、睡眠時間やその他の交絡因子を統制してもなお、表出言語の発達が遅れる関連を初めて見出した(傾きβ=-0.10, 95%信頼区間-2.71, -0.40)。さらに、生後32カ月で測定した睡眠のデータを追加して検討した結果、生後32カ月でも遅い時刻の就寝が維持された群では、表出言語の発達の伸びがさらに低くなる結果を得た。この結果は、乳児期の遅い時刻の就寝習慣が、その後の幼児期の神経発達に及ぼす負の影響を明らかにするとともに、乳児期の睡眠のスクリーニングと遅い就寝時刻を改善するための介入の必要性を示唆している。
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