研究課題
現在、社会問題となっている児童虐待。臨床現場では子ども本人からの聞き取り等を中心に処遇判定を行っており、未だ客観的なエビデンスに基づいた虐待判定は実現されていない。本研究は、虐待判定の客観的エビデンスを反映した複合評価モデルを、脳機能計測・唾液ホルモン測定・心理評価を用いて構築する。これを実現するためにはADHD児の臨床像と被虐待児の臨床像が類似しているという医療現場での課題を解決する必要がある。被虐待児の多くは、潜在的に発達障害を持っている可能性があり、ADHD(注意欠如多動症)児に臨床像が酷似している。そのため、両者の鑑別は非常に難しい。そのためにADHD児と定型発達児の判別を8割で可能にしたfNIRS (functional near-infrared spectroscopy)による判別法をADHD児と被虐待児に応用し、虐待評価の客観的指標の構築を目指す。平成30年度は、積極的に研究協力者(被験者)に対してfNIRSを用いた脳機能計測データおよび、唾液中ホルモン計測、更に「こころファイル」として統合された心理尺度バッテリー評価の蓄積と解析を行った。定型発達児に関しては、中央大学理工学部に新たに生体臨床研究室を設置し、静かな環境下、知能検査及び唾液採取等を行った。ADHD児、及び被虐待児を含む不適切な養育を経験している臨床的に介入が必要な児童群は、獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センターでリクルートを、行いデータを収集した。唾液中ホルモン解析に関しては、獨協医科大学埼玉医療センターの共同研究室において解析を行った。平成30年度に目標とした被験者獲得数まで達成できなかったが、定型発達児及び、臨床群のリクルートは順調に進んでおり、31年度も引き続き研究を継続していく。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度の研究進捗状況としては、研究実施機関(中央大学及び獨協医科大学埼玉医療センター)での倫理審査申請の承認を得たのちに、研究遂行の具体的なシステム構築を行った。特に、臨床群リクルートに関して、獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センターの医師及び医局スタッフ向けて説明会を実施し、本研究の被験者リクルートの協力を依頼。また、獨協医科大学埼玉医療センター内にある共同研究室を唾液中ホルモン解析時に使用出来るよう施設利用申請を行い、臨床技師と一緒に具体的な活動フローを構築した。獨協医科大学埼玉医療センターでは、8月に医局の大規模な引っ越しがあり、それまで外来診察室内で実施していたfNIRS計測は、小児病棟フロアにある院内学級で行うこととなった。これにより脳機能計測環境が整い、以前よりも外部の音や刺激の影響を抑えられるようになった。現在、定型発達児のリクルートは順調に進んでおり、予定数の7割以上を達成している。また、臨床群においては現時点で30名が研究に参加している。今回、当研究においていくつかの問題点が生じてきている。まず、一つ目として臨床群の背景が多様なため、同質の一群として扱う事が難しい可能性がある事。これに関しては、サブタイプ化等に関して今後検討を重ねる。二つ目、唾液中ホルモンOxytocin解析では、市販されているELISAキットを用いて解析を行っているが、唾液成分を凍結乾燥により2倍濃縮をかけて解析を行ったところ、かなり多くのデータ値が得られないという結果となった。このことから、先行研究及び、Oxytocin解析の専門家から助言を参考にし、今後は凍結乾燥により4倍濃縮をかけて解析する方向で準備を進めている。このことから、Oxytocinに関してはデータ解析の手法の変更が必要となった。一方、Cortisol解析は概ね順調に進行している。
平成31年度は、引き続きリクルートを行い、順次解析を進める。データ数の決定においては、検出力検定を行い、値の妥当性が得られるまでリクルートを継続する。一方、ホルモン解析においては引き続き試行錯誤を繰り返すと同時に専門家らのスーパーバイズを受けながら解析作業を展開していく。これまで研究に参加された臨床群の中には、ADHD治療薬使用検討状況にあった子どもも含まれており、fNIRS計測結果報告書は、診察場面において医師による服薬治療導入に非常に有益に働いているとのことから、fNIRS計測を用いてADHDの治療の社会的実装を更に後押ししたいと考えている。被虐待児群においてはfNIRS計測結果報告においてADHD群とは異なる脳の動態血流反応が視覚的に認められており、個別の状況を踏まえた治療方針の必要性を確認したとの報告が得られている。今年度は、この社会実装を目的とした臨床応用の精度をより上げていく。更に複数の心理尺度を用いて子どもの状態を多面的に把握する目的で作成した「こころファイル」は、研究以外の臨床場面で心理的トラウマや解離が予想される子どもと保護者に実施することで治療方針の決定に用いられ始めている。特に保護者側の視点と、子ども自身の認識度の違いや、トラウマや解離及び、不適切な養育環境、更に保護者が子どもの行動にどれだけ苦慮しているかなど、複合的に問題状況を把握することが出来る。今年度は、「こころファイル」の精度もより高めていく方針である。最後に昨年度より懸念されているポータブルNIRSの活用に関しては、昨年東京大学で開催されたfNIRS2018国際学会において機器に関する最新情報を入手しており、専門機関との交渉に向け準備を進めている。
研究遂行において、所属研究機関が大学という環境であったため、学習の一環として研究に参加したので、人件費等が発生しない状況であった。今年度は、データ解析等に人件費が必要になることと、定型発達児の研究協力のための図書カード等の謝金が発生すること、更には、唾液中ホルモン解析法の変更等が発生したため、現在確保している唾液検体を用いてOxytocinの再解析を行うためにELISAキットの購入が必要になる。また、研究報告のための論文投稿費、及び海外で行われる国際学会参加費等もまだ発生していないことから、今年度は、それらに関して経費が発生する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 備考 (4件)
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