研究実績の概要 |
本研究は全体を通じて外的要因により研究実施に困難さが付き纏った。協力機関の研究協力者の逝去、コロナ禍により研究実施先の病院の睡眠治療病棟自体が閉鎖されるなど紆余曲折があった。 研究当初は体内リズムの中でももっとも顕著な睡眠覚醒リズムに注目し、小規模サンプルではあるが、睡眠障害を抱える患者への睡眠治療(介入)により、かれらに多く観察される自閉症スペクトラムに特徴的な症状に変化が生じるかを観察することを目標としていた。その観点に立ち、睡眠治療前後で患者らは顔画像を好む傾向が有意に改善すること、視線パタンの患者間の類似度についても、治療後に有意に上昇することを見出した(参加者間の視線パタンの類似度はASD群内よりも健常者群内のほうが高いという先行研究がある)。こうした結果は睡眠障害の治療によりASDに典型的な行動が減少していることを示唆している。しかしデータをさらに増やそうとする中でコロナによる睡眠治療病棟の閉鎖があった。 しばらく事態の推移を見守り病棟再開の機会をうかがったがその機会は訪れなかった。研究の方向を大きく転換し、大規模サンプルを用いることで睡眠と自閉症スペクトラムの関係性を調べる手法へと切り替えた。 この方針転換には2020年に三池らが発表した研究も関係する。三池らは、自閉症スペクトラムと関連があると想定される乳児は睡眠に非典型的なパタンが現れるとする研究を発表した(Miike et al., 2020)。この考えに基づき、昨年度より7000名余りの睡眠データを解析開始し、睡眠に問題がある、すなわち自閉症スペクトラムと関連があると想定される乳児をプレスクリーング可能とするアルゴリズムを開発した。この成果は2022年度(最終年度)にFrontiers in Pediatricsに掲載された。
|