【目的】胎児は放射線感受性が高いとされるが、出生後の発がんリスクについて統一した見解は得られていない。発がんは環境因子や遺伝的要因に大きく影響されることから、胎児期被ばくにおいても放射線単独では見えなかったリスクが出生後の生育環境によって変動する可能性がある。本研究は放射線と化学発がん物質との複合ばく露の系を用いて、胎児期の放射線被ばくによる生涯にわたる影響を動物実験で明らかにすることを目的とした。 【研究実施計画】本研究では、放射線はX線を、環境発がん物質としては食事やたばこ中の成分であるENU(N-ethyl-N-nitrosourea)を用いた。マウス発がん実験はすでに終了しているため、本研究では保存済み試料を用いて解析を行った。具体的には、①解剖所見より臓器毎に認められる病変の頻度を求め、②高頻度に観察される腫瘍の病理解析を行い、発がんリスクを明らかにする。③得られた腫瘍について次世代シーケンス解析を行い、発がん要因による遺伝子変異の違いを探る。 【研究成果】①肺、肝臓(42-63%)、子宮(28-84%)など多くの臓器で様々な病変が観察された。特に肺の病変はコントロール群(37%)、X線単独群(38%)に対し、ENUを投与した全ての群で高頻度であった(66-96%)。 【最終年度】②病理診断により肺腫瘍から肺腺がんを確定し、発生率をコントロール群と比較した結果、X線単独群では有意な差は認められなかった。コントロール群に比べ、ENU単独群と複合ばく露群は有意に発生率が高かったが、両群の間に有意差はなかったことから、胎児期放射線被ばくでは将来における発がん物質ばく露の影響が大きいことが示唆された。③肺腺がんの凍結切片を作製、レーザーマイクロダイセクション法によりがん細胞を収集し、ゲノムDNAを抽出した。今後、次世代シーケンス解析を行い、遺伝子変異の全体像を明らかにしていく。
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