研究課題/領域番号 |
17K01941
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
不破 春彦 中央大学, 理工学部, 教授 (90359638)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 全合成 / マクロリド / 構造活性相関 / 細胞増殖阻害 / 立体配座 |
研究実績の概要 |
渦鞭毛藻やシアノバクテリアなどの海洋微生物は、多彩な大環状骨格化合物を二次代謝産物として生産する。これらの多くはヒトがん細胞に対し強力な増殖阻害活性を示すことが知られており、その活性発現の分子基盤に基礎科学的な興味が持たれるとともに、新たな医薬品あるいは薬理試薬のシーズとして有望である。しかし、海洋微生物の大量培養による化合物供給、および、複雑な構造を有する天然標品の自在な構造改変が困難であることから、実践的な全合成による天然物および類縁体の供給が必須である。 本年度は複雑海洋天然物イリオモテオリド-2aおよびエニグマゾールAの構造活性相関研究を実施した。前年度までに合成したイリオモテオリド-2aおよびその立体異性体5種類について、ヒト子宮頸がんHeLa細胞に対する増殖阻害活性をWST-8法で評価した。その結果、前年度の予備的な検討結果と同様、合成品のイリオモテオリド-2aはIC50値が60 μMと、単離文献記載の数値よりも1,000倍程度弱い活性しか示さなかった。さらに合成した立体異性体群も同様に数十μM程度の活性しか認められなかった。以上の結果から、イリオモテオリド-2aの天然標品のヒトがん細胞増殖阻害活性は再検討の必要があることが明らかとなった。また、エニグマゾールAについては、全合成の中間体から天然同族体を含む数種の類縁化合物を誘導し、ヒト肺腺がんA549細胞に対する増殖阻害活性試験を行った。その結果、5位のリン酸基が活性発現に必須であること、15位をメチルエーテル化した15-O-メチルエニグマゾールAがエニグマゾールAよりも3倍程度強い活性を示すことを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度まででイリオモテオリド-2aの全合成、絶対配置決定および生物活性評価を終えることができた。本天然物の全合成、構造改訂および活性評価に関する論文が、Chemistry - a European Journalに高評価にて掲載が決定し、研究計画当初の目標を十分に達成できているものと考える。しかし、予想に反して天然物および立体異性体のすべてがヒトがん細胞に対して弱い増殖阻害作用しか示さなかったため、本天然物に関する研究はこの段階で終了することになった。 本年度からエニグマゾールAの類縁体合成と生物活性評価に本格的に着手し、現在までに全合成の中間体からさまざまな類縁化合物を誘導するための基礎的な知見を集積することに成功しており、実際に数種の類縁化合物の合成を完了している。また、合成品による天然物の活性の確認を済ませたほか、合成が完了した類縁化合物の評価も進めており、進捗状況はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの結果を受け、今後はエニグマゾールAの構造活性相関研究に焦点を絞る。マクロ環辺縁の官能基に関するさまざまな類縁化合物を合成するため、全合成中間体に含まれる各官能基の反応性について知見をさらに集積する。次いで、9位および15位に関する類縁化合物を合成する。9位はエキソメチレン基であるが、天然同族体にはこの部分の構造が異なる化合物も知られるため、構造改変による生物活性への影響を調べる。また、15位ヒドロキシ基は標識体の合成に有用な足場となりうるため、この部分の改変が可能かどうか、複数の類縁化合物を合成することで詳細に検討する。現在のところ、合成した化合物についてはヒト肺腺がん細胞A549に対する増殖阻害活性を評価しているのみであるので、今後はヒト慢性骨髄性白血病細胞K562やヒト急性骨髄性白血病細胞Kasumi-1などに対する活性も併せて評価し、化合物によって細胞株選択的な毒性が見られるかどうかについても検討を行う。並行して、各類縁化合物について溶液中の立体配座を比較する目的で各種NMR測定を実施し、構造改変と立体配座の相関を詳細に解析することで、構造活性相関研究の一助とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
合成品のイリオモテオリド-2aおよび立体異性体に単離文献記載の生物活性が認められず、さらなる類縁体合成を実施しなかったため、次年度使用額が生じた。翌年度の消耗品費に充当し、有効活用する予定である。
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