研究課題/領域番号 |
17K01945
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
杉谷 加代 金沢大学, 保健学系, 助教 (20162258)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Factor XIII-A / 急性相反応物質 / zebrafish / regeneration / retina / transglutaminase / optic nerve / HSF-1 |
研究実績の概要 |
血液中のFactor XIII (FXIII) は、酵素活性中心を有するAサブユニット2分子とその担体のBサブユニット2分子からなる4量体で構成され、血液凝固のカスケード反応の最終段階で、トロンビンの作用により活性化されることが知られている。一方、組織や細胞中にも、酵素活性を有するAサブユニット2分子のみから成るCellular タイプのFXIII(cFXIII)が広く生体内に分布することが、近年明らかとなってきた。しかし、cFXIIIのAサブユニット(FXIII-A)がどのように活性化されるのかについては、報告例がほとんどない。 そこで、cFXIIIが確実に発現するin vivoの実験系として、我々はゼブラフィッシュの視神経損傷モデルを用いた。ゼブラフィッシュの視神経をクラッシュすると、FXIII-Aは損傷直後から網膜と視神経の両方に発現上昇が見られ、視神経の再生・修復に関与する再生関連分子の1つであることがこれまでの実験で確認されている。 ゼブラフィッシュ視神経を実験的に損傷後、網膜で発現するFXIII-AのcDNAについてクローニングを行った。その結果、視神経損傷後のサンプルからは 5'領域の一部が欠如した短いタイプのcDNAが多数出現するという、独特の変化を示すことが分かった。これらのクローンを詳細に解析すると、通常の血液凝固過程ではFXIII-AのN末端タンパクの一部でトロンビンによって切り放される、「Activation peptides」のコード領域が欠如したショートタイプのcDNAであることがわかった。また、翻訳開始領域の直前には、Heat shock factor(HSF)1 の結合領域が2か所確認された。HSFは視神経損傷後、30分で発現上昇する急性相反応物質である。これらの結果より、HSF1誘導によるFXIII-Aの活性化機構が存在が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組織に分布するCellular FXIII(FXIII-A)の活性化機構についてはこれまで不明であったが、トロンビンが関与しない条件下でも活性化が起ることが、ゼブラフィッシュの視神経損傷モデルにより明らかとなった。この活性化には、転写因子であるHeat shock factor(HSF)1の発現が不可欠であり、HSF-1の発現をインヒビターにより阻止するとFXIII-Aの活性化も阻害されることが証明された。この2つの分子に直接的な相互作用があるのかどうかについて、クロマチン免疫沈降反応(Chip assay)を用いて確認したところ、抗HSF-1抗体により、FXIII-AをコードするDNAが沈降することが確認できた。つまり、FXIII-Aの発現に先んじてHSF-1の発現が上昇し、この転写因子の作用により活性化タイプの短いタンパクで構成されるFXIII-Aが発現上昇するということが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
ゼブラフィッシュの視神経損傷モデルを用いて確認された、トロンビンを介さない活性化タイプのFXIII-Aの発現は、Heat shock factor 1 などの転写因子が関与している可能性が示された。これらの転写因子およびHeat shock proteinは、視神経損傷というダメージに対して、30分から数時間という非常に短時間で発現上昇が見られる急性相反応物質としての特徴を有する分子であることが確認できた。今後、FXIII-AやHSFとの相互関係における創傷治癒への関与、さらに、この他の急性相反応物質について検索を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通りに予算を執行したつもりであったが、年度末のキャンペーン等で通常よりも割安に手に入った物品等があり、数千円の余剰金が出たと考えられる。この余剰金については、来年度の予算と合算し、計画的に使用する予定である。
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