研究課題
乳児期に頭頂骨の骨と骨のつなぎ目が早期に癒合することで知られる頭蓋骨縫合早期癒合症(狭頭症)の原因遺伝子のひとつであるNELL1は、頭蓋顔面の骨格形成に関わる分泌タンパク質をコードしており、その骨形成作用に基づいた骨再生治療への応用が試みられている。しかし、NELL1による骨形成作用の分子基盤、特に細胞表面受容体と下流のシグナル伝達機構は不明な点が多く、臨床応用する際のボトルネックとなっている。本研究課題では、(1) NELL1の部位特異的な受容体の同定と下流のシグナル伝達経路の解明、(2) NELL1タンパク質の機能領域の同定とそれらの改変による新規骨形成因子の創成を試み、新しい骨再生治療法を開発することを目的とした。昨年度に引き続いて、NELL1の新奇受容体の同定に取り組み、Roboファミリー受容体とNELL1の結合能について解析を進めた。NELL1とRoboファミリー受容体(Robo1~4)の結合を共免疫沈降法および固相化結合実験によって調べ、NELL1が中性の生理的条件下ではRobo3にしか結合できないが、酸性条件下ではRobo2にも結合することを見出した。Robo3がおもに神経系組織で発現しているのに対して、Robo2は間葉系組織での発現が多く見られることから、Robo2が骨芽細胞におけるNELL1の受容体として機能し、骨形成に関わっている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
NELL1の新奇受容体としてRoboファミリー受容体の一員であるRobo2を同定した。pH 7付近の生理的条件下においては、NELL1はRobo2に結合できないが、pH 5~6付近の酸性条件下では、Robo2の細胞外領域のコンフォメーション変化により、NELL1が結合できるようになることを明らかにした。細胞外pHの低下は破骨細胞による骨吸収を活性化することが知られており、骨形成と骨吸収のカップリング機構が存在するならば、酸性条件下でNELL1が骨芽細胞表面のRobo2に結合することによって骨形成のトリガーを引くような役割を果たしていることが推測された。研究の進捗状況はおおむね順調であるが、現在、上記の仮説が正しいことを証明するべく実験を進めている。
最近、Robo2の結晶構造が解明され(Barak, R. et al. Cell 2019)、中性におけるRobo2の細胞外領域の構造は我々が推定した通り、NELL1の結合領域をマスクするような構造であった。今後は、酸性条件下におけるNELL1とRobo2の結合様式を様々な手法を用いて詳細に解析する。また、NELL1とRobo2の結合が骨芽細胞の分化過程においてどのような役割を果たしているかを調べるために、酸性条件下における骨芽細胞の分化とNELL1の添加効果を解析する。昨年、NELL1の新奇受容体としてContactin-associated protein 4 (Cntnap4) が報告された(Li, C. et al. J. Bone Miner. Res. 2018)。Cntnap4はノックアウトマウスの表現型から骨形成にかなり重要な役割を果たしていると考えられるが、同じくNELL1受容体として知られるインテグリンβ1を含めて、Robo2との関連を調べる予定である。
初年度に骨髄由来幹細胞への遺伝子導入実験のために予定していた遺伝子導入装置の購入を取りやめたことによる。今年度は、細胞培養装置の故障修理と論文投稿および出版費用でかなりの金額を必要としたが、次年度も投稿論文作成のための資金として使用する。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 294 ページ: 4693-4703
doi: 10.1074/jbc.RA118.005819. Epub 2019 Jan 30.