乳児期に頭頂骨の骨と骨のつなぎ目が早期に癒合することで知られる頭蓋骨縫合早期癒合症(狭頭症)の原因遺伝子のひとつであるNELL1は、頭蓋顔面の骨格形成に関わる分泌タンパク質をコードしており、その骨形成作用に基づいた骨再生治療への応用が試みられている。しかし、NELL1による骨形成作用の分子基盤、特に細胞表面受容体と下流のシグナル伝達機構は不明な点が多く、臨床応用する際のボトルネックとなっている。本研究課題では、(1) NELL1の部位特異的な受容体の同定と下流のシグナル伝達経路の解明、(2) NELL1タンパク質の機能領域の同定とそれらの改変による新規骨形成因子の創成を試み、新しい骨再生治療法を開発することを目的とした。 本年度は、昨年度に同定したNELL1の新奇受容体であるRobo2の構造特性について解析を進めた。NELL1が酸性条件下でRobo2に結合できるようになることはRobo2のコンフォメーション変化によるものと仮定して、これを明らかにするために蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理に基づくバイオセンサーを用いた解析を行った。その結果、Robo2のpHに応じた構造変化はダイナミックなものではなく、NELL1との結合部位をかろうじて露出させる程度の小さなものである可能性が示唆された。 Robo2の構造特性および骨形成における役割については解析の途中であるが、NELL1の新奇受容体としてRoboファミリー受容体のひとつを同定したことにより、骨形成のみならず様々な場面でNELL-Roboシグナルが働いている可能性を示したことで本研究成果は重要である。
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