研究課題/領域番号 |
17K01947
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
松尾 貴史 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (50432521)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 金属酵素 / サブチリシン / 構造柔軟性 / 動的構造効果 |
研究実績の概要 |
金属含有酵素の固有機能を司る中心金属イオンの反応性は、金属配位部位の局所的構造効果のみならず、生体高分子としての性質も関与していると予想される。そのことを、実験データによって証明するために、シンプルな構造をもつチオールサブチリシンをモデル蛋白質として、この蛋白質中に唯一存在するCys残基であるCys221を配位子とするCu(II)錯体を構築した。そして、このCu(II)中心の反応性が、Cu中心から離れたところに存在するCa(II)イオンの結合状態によって影響を受けるかどうかを各種分光学的に手法によって検討した。まず、Ca(II)イオンの結合状態による蛋白質二次構造への影響は、CDスペクトルによりほとんどないことが確認された。次に、Cu(II)錯体の形成についてUV-vis、ICP-MSによって確認し、Ca(II)イオンが正常に結合している状態では、1:1の安定なCu(II)錯体として単離できることを見いだした。一方、Ca(II)イオンが脱離した状態では、蛋白質二次構造が類似しているにも関わらず、Cu(II)錯体の形成は見られなかったことから、CDスペクトルには反映されない蛋白質主鎖の柔軟性が重要なファクターであることが示唆された。そこで、Ca(II)の結合状態が異なる蛋白質を作り分けし、アミドH/D交換後の質量分析を実施したところ、Ca(II)イオンの有無により主鎖の運動性を大きく支配されることが分かった。さらに、電子スピン共鳴によって、Ca(II)イオンの結合状態はCys配位Cu(II)錯体の自動還元挙動にも影響を与えることが示された。Cu(II)錯体とCu(I)錯体では安定な錯体構造は異なる。よって、主鎖の構造柔軟性が自動還元のしやすさを制御しており、蛋白質全体のグローバルな構造柔軟性が、小さな金属イオンの反応性を制御していることが実験的に証明できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛋白質全体の構造効果の重要性が実験的に証明され、学術誌に報告する段階まで至った。
|
今後の研究の推進方策 |
自動還元後の銅錯体の構造の詳細な構造的知見を得るために、蛋白質の結晶化を試みるとともに、溶液中において、構造柔軟性効果が、Ca(II)結合サイトから、Cu錯体中心へ、どのように伝搬していくのか、その伝搬経路を特定するために、溶液NMRおよびペプシン消化によるペプチドフラグメント解析を実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
29年度に実施予定であった実験のうち、蛋白質の結晶構造解析において、構造解析に適した品質の良い結晶を得ることが困難であったため、結晶化条件の再検討のための結晶化キットの購入および学外実験に伴う機器使用代、旅費に必要な895,211円を30年度分の助成金と合わせて請求する。
|