金属含有酵素は、生体高分子であるタンパク質の内部に金属配位部位をもち、この金属配位部位の反応性が金属酵素の機能の源である。本研究では、この金属配位部位の反応性に対するタンパク質部分の構造効果を検証するために、システイン残基を1個有するチオールサブチリシンをモデルタンパク質として検討を実施してきた。本年度は、チオールサブチリシンの構造柔軟性を部位特異的アミノ酸置換によって制御するために、まず、大腸菌発現系によるチオールサブチリシンカールスバーグおよびサブチリシンEの取得プロトコールの確立を行い、このプロトコールがSer221をシステインに変換した変異体の取得にも適用可能かどうかを検証した。 カールスバーグ種、E種ともに、分子シャペロンとして機能するプロドメインを有するプロサブチリシンとして発現されるようにプラスミドベクターを構築し、IPTGを用いた発現誘導系によって、タンパク質発現を試みた。その結果、プロサブチリシンの発現を電気泳動等で確認でき、タンパク質の取得に成功した。昨年度までの結果で、カールスバーグ種のプロチオールサブチリシンは自己消化によって成熟化酵素に変化することが分かっていたが、E種では、プロドメイン部分の変異が自己消化速度を加速させた。成熟化したチオールサブチリシンに対して、2-ブロモメチルピリジンを作用させると、Ser221Cysがピリジルメチル化され、Cu(II)の添加により、金属イオンがタンパク質内に安定に保持されることがICP-MSによって示された。つまり、新たに添加されたピリジンとCys221およびHis64の三座配位による金属錯体がタンパク質内に形成され、バッファー中のカルシウム濃度に依存して、Cu(II)の自動還元速度が変化した。以上から、両種類のサブチリシンにおいて、タンパク質に結合した遷移金属イオンの反応性が、タンパク質の構造柔軟性によって制御されることが実証された。
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