研究実績の概要 |
がん細胞などのシグナル伝達に深く関わる『微小管』は,2 つの球状タンパク質であるα-チューブリンとβ-チューブリンのヘテロダイマーが重合することによって構成されている.微小管のダイナミクスを阻害すると,がん細胞等の異常細胞の増殖を抑制できることから,α,β-チューブリン阻害剤は,抗がん剤として開発されてきた.この微小管形成におけるα,β-チューブリンの重合の起点となっているのがγ-チューブリンである.従ってγ-チューブリンに特異的に作用する薬剤は,有効な抗がん剤リード化合物として期待できる.これまでに代表者は,α,β-チューブリンの重合阻害活性を示す天然物であるグラジオビアニンAをリード化合物として開発したガタスタチンは,α,β-チューブリンには全く作用せず,γ-チューブリンに対して特異的に作用することを明らかにし,世界初のγ-チューブリン特異的阻害剤として報告している.一方,昨年開発したO6位にプロパルギル基,ベンジル基を導入したガタスタチンアナログは,α,β-チューブリンには作用せず,ガタスタチンを凌ぐ細胞毒性とγ-チューブリン特異的阻害活性を示すことが明らかになった. そこで今年度は,連携研究者の臼井と協力して,より詳細な活性発現機構の解析を行った.間期細胞形態を観察したところ,O6改変ガタスタチンアナログは微小管形態には大きな影響を及ぼさないことがわかった.一方,細胞分裂期細胞形態を観察した結果,活発に中心体からの微小管伸長を起こす細胞分裂期で紡錘体形態異常を引き起こし,中心体からの微小管伸長(核形成)を阻害していることが明らかとなった.この結果はガタスタチンの活性発現機構と類似していることから,O6改変ガタスタチンアナログは,ガタスタチンより強力なγ-tubulin特異的阻害剤であることが明らかになり,この結果を特許として出願した.
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