研究課題
本研究課題では、申請者が近年開発したリジン特異的脱メチル化酵素 1 阻害剤(LSD1i)とピロール・イミダゾールポリアミド(PIP)との融合分子を用いて、それら分子による選択的なヒストンメチル化誘導効果を、抗がん活性という観点から評価を進めるものである。PIPと融合させるLSD1iとしては、研究協力者である京都府立医大・鈴木孝禎教授らが開発したNCD38を筆頭候補として融合体の作成を進め、有機合成化学的な観点からは研究協力者である千葉大学・根本哲宏教授らの協力を得て新規融合分子の開発と評価を現在進めている。平成30年度は、前年度より引き続きPIP-NCD38融合体をヒト大腸がん細胞RKOへ投与する系を中心に評価を進め、親分子であるNCD38はGC-richなゲノム領域のヒストン修飾を優先的に活性化させる傾向があることを発見した。一方で、AT-richなDNA配列を認識するPIP-NCD38融合体では、活性化領域がAT-richなゲノム領域に変わることが示唆され、PIPとの融合によって標的領域を制御できる新規化合物としての可能性が得られた。これら新規化合物の合成法と化学的評価をHeterocycles誌へ、細胞レベルでのエピゲノム解析結果をOncotarget誌へそれぞれ投稿し、双方とも受理された。また、平成31年度へ向けた研究として、PIP-LSD1融合体の分子設計についてDNAへの結合力強化と阻害剤ユニット部分のシンプル化の観点からそれぞれ改良を施し、試作型分子を用いて先行的に評価した結果、ヒト白血病細胞細胞HL60がより良い投与対象であることが判明し、現在はこの細胞株を中心に新しい融合体の詳細解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
PIP-NCD38融合体については、PIPとの融合によって領域選択性を付与できるポテンシャルを示すことができ、その過程で合成された新規化合物を用いた研究成果は2報の論文として報告することができた。これらの研究結果は、より効果的な細胞毒性を得られるような分子設計・標的の探索へ応用できるものとして、さらなる薬剤開発が現在進行中である。平成30年度の研究結果を基盤として、より改良された分子に関する研究を現在進行中であることからも、本研究が目指す”配列選択的ヒストンメチル化誘導小分子”の薬剤開発に向けた有益な結果が得られている。
平成31年度へ向けた研究として、PIP-LSD1融合体の分子設計についてDNAへの結合力を増強させるユニットの付与や、阻害剤ユニット部分の合成難易度を下げるためのシンプル化という2つの観点において、融合体の最適化を進める。現在は試作型分子を投与した細胞に関するエピゲノム解析が進行中であり、その解析結果の報告を行うとともに、最適化された融合体のライブラリー構築を目指す。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Heterocycles
巻: - ページ: -
10.3987/COM-18-S(F)57
Oncotarget
巻: 9 ページ: 29316-29335
10.18632/oncotarget.25451
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/moloncol/