研究課題/領域番号 |
17K01967
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
梅澤 一夫 愛知医科大学, 医学部, 教授 (70114402)
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研究分担者 |
小出 直樹 愛知医科大学, 医学部, 教授 (50308962)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 三次元培養 / 浸潤 / がん細胞 / 生理活性物質 / NF-kappa B / 微生物 |
研究実績の概要 |
がん細胞の遊走・浸潤を抑制する低分子化合物は新しい転移抑制剤として有用と考えられる。そこで、私たちはwound healing assayを用いて乳がんMDA-MB-231細胞の遊走を測定し、阻害物質探索系を構築した。そして約1000の微生物株培養液から探索したところ、放線菌培養液のひとつに阻害活性を見出し、単離、構造決定して既知抗生物質ketomycinが得られた。ketomycinはMBA-MB-231細胞の遊走・浸潤を毒性のない濃度で阻害した。一方、がん細胞の三次元(3D)培養法は二次元(2D)培養より形態や性質が生体内の状態に近く、生体内環境をin vitroで模することができる。今後、3D浸潤の阻害と作用機構を検討する。ketomycinは転移を抑制する新しい分子標的医薬の候補として可能性がある。 一方、私たちは以前、NF-kappa B阻害剤としてDHMEQを発見した。3D培養のために、MDA-MB-231細胞のスフェロイドを形成させ、そこからの3D浸潤をモニターした。DHMEQは様々ながん細胞において2D細胞浸潤を抑制するが、3D培養の細胞に使われたことはない。DHMEQは3D毒性のない濃度で3D浸潤を顕著に阻害した。H29年度は阻害の機構を解明するためにTumor Metastasis PCR arrayで解析したところ、DHMEQ処理によってMMP-2の発現が低下することが見出された。以上のように、3D浸潤を顕著に抑制することからDHMEQはin vivoにおいても多くの悪性度の高い腫瘍に対して転移抑制効果があるかもしれない(2017年論文発表済み)。 そのほか、がん細胞の遊走を阻害する新規物質terfestatin Dとmigracin誘導体migracinalを発見した(いずれも論文発表済み)。さらに、DHMEQの新しい抗がん活性を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞遊走阻害剤として、微生物由来新規物質terfestatin Dを発見し、やはり、遊走・浸潤阻害物質として、分子デザインにより、私たちの発見した放線菌由来migracinの構造を簡略化したmigracinalを創成した。ketomycinは新規活性物質として放線菌からスクリーニングされた。さらにDHMEQが3D浸潤を阻害することを見出した。以上から、研究課題は「三次元培養がん細胞の浸潤を阻害する微生物由来生理活性物質の探索」であり、探索面で、十分な成果が得られていると判断した。ketomycinはH30年度に3D培養を調べる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度にがん細胞遊走・浸潤阻害物質として、放線菌から単離したketomycinは弱い抗生物質で、その作用はL-serine等のアミノ酸でキャンセルされるが、そのほか多くの活性は知られていない。Matrigel chamber assayにおいてMBA-MB-231細胞の浸潤を阻害するので、その機構を解析する。Human Tumor Metastasis PCR arrayを用いてketomycinによって発現が変化するタンパク質を見出す。そして、選択したタンパク質をsi-RNAでノックダウンし、遊走・浸潤が変化するかを調べる。さらに、本研究課題である3D培養の阻害を、高い3D浸潤活性を示すMDA-MB-231細胞を用いて調べる。ketomycinは簡単な構造で合成が可能であり、転移阻害剤のシードとして有用な可能性がある。 一方、放線菌由来マクロライド系の既知放線菌由来化合物ががん細胞の遊走阻害物質として得られ、すでに特許を申請している。そこで、その化合物の2Dおよび3D浸潤阻害活性を調べる。浸潤阻害活性があれば、Human Tumor Matastasis PCR Arrayを用いて機構を解析する。 3D浸潤は形態的に転移の初期過程、離脱と遊走、に類似することに着目し、DHMEQが3D浸潤を阻害する論文を発表したとき、副題に「転移初期過程の阻害」を入れたところ、かなりの反響があった。そこで、転移初期過程阻害剤としても新規物質および新規活性物質を探索する。探索には2つのスクリーニング系を用いる。一つは、NF-kappa B阻害剤を探索するために、マクロファージにおいてLPS誘導NO産生阻害剤を探索する。もう一つは、wound healing assayを用いて直接的に、がん細胞遊走・浸潤阻害物質を微生物培養液や研究室のライブラリーから探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月にNF-kappa B活性測定キットとIkappa-B活性測定キットの納入が遅れたため。
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備考 |
愛知医科大学ホームページには研究室紹介のほか2012年以降の刊行論文が記載されている。梅澤ラボ・チャンネルには生理活性物質の探索法や、現在、医薬として開発が進んでいるDHMEQの紹介がある。
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