研究実績の概要 |
本研究の目的は核酸四重鎖構造のトポロジーの細胞内での役割を物理化学的解析を通して理解することである。H29年度は複製反応におけるDNA四重鎖構造の影響を定量的に調べる手法の開発と解析を行った。四重鎖構造の安定性はUVメルティング法で解析した。さらに複製反応については、鋳型核酸上に四重鎖を形成する配列を設計し、蛍光ラベルしたプライマーからの複製反応をKlenow Fragment DNA polymeraseを用いてその経時変化を電気泳動で解析した。その結果、四重鎖の熱安定性が高いほど複製反応を阻害する効果が強まった。その一方、四重鎖のトポロジーの違いによってその複製阻害効果は大きく異なった。特に、i-motif構造に対する複製反応への阻害効果が最も強いことが見出された。四重鎖構造の安定性と複製効率の定量的な解析の結果、各四重鎖構造に対する複製反応の活性化エネルギーが異なることが複製の四重鎖トポロジー依存性の原因であることが確認された。さらに同じDNA配列においても、分子クラウディング環境によってトポロジーが変化し、安定性と複製効率の相関性が変化することが明らかになった。これらの結果は、細胞内で様々に変化するクラウディング環境に応じて、遺伝子複製の異常や組換えが生じることを示唆する。したがって、四重鎖トポロジーの変化は複製異常を原因とするがん等の疾患の要因となる可能性がある。以上の成果をまとめ、論文発表することができた(S. Takahashi, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 114, 9605-9610 (2018))。また、本アッセイ系の確立によって、四重鎖構造に相互作用する低分子化合物や核酸分子の影響を定量的に解析するプラットホームを構築することができた。
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