研究実績の概要 |
本研究の目的は核酸四重鎖構造のトポロジーの細胞内での役割を物理化学的解析を通して理解することである。2018年度は四重鎖構造の複製反応に対する化学的要因について検討した。まず、グアニン四重鎖形成配列中のグアニン塩基が酸化された場合の影響を検討した。がん遺伝子と知られるVEGF遺伝子のプロモーター配列由来のグアニン四重鎖形成配列について、グアニン塩基の1つを8-oxoグアニンに置き換えたところ、四重鎖構造の不安定化と、トポロジーの変化が観察された。その結果、複製反応の阻害効果が大幅に低下した。さらに、リガンド分子による四重鎖の複製に対する化学的制御にも取り組んだ。前述の酸化したグアニン塩基を持つグアニン四重差に対し、グアニン四重鎖のリガンドであるピレンを5’末端に有する3塩基のグアニンが連続する人工核酸を添加したところ、酸化されたグアニン塩基と置き換わるように相互作用した。形成した四重鎖は、酸化されていない天然型と同等の安定性とトポロジーを示した。以上から、化学的要因によって四重鎖の安定性やトポロジーが変化する事で複製反応の制御機構が影響を受け、また人為的に化学制御できることを示すことに成功した。この成果は2018年度に論文発表し(Takahashi et al., JACS, 2018)、新聞記事として取りあげられた。さらに上記の人工核酸の効果をより詳細に検討することで、リガンドが相互作用する四重鎖の位置によっても四重鎖の複製阻害効果が異なることを見出した(Takahashi et al., Molecules, 2018)。これらの結果は、小分子化合物やタンパク質などが四重鎖のトポロジーに依存した相互作用を行うことで複製反応を制御していることを示唆しており、得られた知見は次年度以降行う小分子やタンパク質の影響に関する研究推進に役立てる。
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