研究実績の概要 |
本研究の目的は核酸四重鎖構造のトポロジーの細胞内での役割を物理化学的解析を通して理解することである。2019年度は主に小分子化合物による複製反応の影響の検討を行った。その一つとして、がん遺伝子の一つとしても知られる血管内皮増殖因子VEGF遺伝子に存在するi-motifに対する小分子化合物の影響を検討した。その結果、植物由来の化合物fisetinがVEGF i-motifに結合することを見出した。結合に伴い励起状態分子内プロトン移動に伴う蛍光増強が観察されたのと共に、i-motifの構造がヘアピン構造に転移することを見出した。その結果、i-motifによる複製反応の阻害効果が解消された。以上から特定の四重鎖構造に結合し、その複製反応を制御することに成功した。fisetinはVEGF i-motifに結合することで蛍光を発することと同時に複製反応を制御することができることから、セラノティクスとしての応用が期待できる。この成果は国際共同研究として論文発表した(Takahashi et al., Sci. Rep., 2019)。さらに、核酸構造のトポロジーを変化しうる分子クラウディング環境が核酸構造の安定性に関する法則を導きだし、論文発表した(Ghosh and Takahashi et al., Nucleic Acids Res. (2019))。本成果は掲載号の雑誌の表紙として取り上げられた。また、これまでの成果で確立した、複製反応に対する核酸構造の影響の定量的解析法について、Springer社から刊行された書籍のチャプターとして発表した(Takahashi et al., Methods Mol. Biol. (2019))。得られた知見は次年度行うタンパク質や細胞内環境が複製反応に及ぼす影響に関する研究推進に役立てる。
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