研究実績の概要 |
本研究の目的は核酸四重鎖構造のトポロジーの細胞内での役割を物理化学的解析を通して理解することである。2020年度は主にタンパク質による四重鎖構造を有するDNAの複製反応に及ぼす影響を検討した。四重鎖構造に結合するタンパク質としてヘリカーゼに着目し、ヘリカーゼ及びそのドメイン構造を大腸菌によるリコンビナントタンパク質として調製した。その結果、Pif1ヘリカーゼ存在下における複製反応を観察したところ、四重鎖のトポロジーに依存して複製効率が変化することが観察された。現在、他のヘリカーゼを用いた場合の定量的解析を進めており、成果の論文投稿準備中である。 さらに2020年度は、 核酸構造のトポロジーを変化しうる分子クラウディング環境が核酸構造の安定性に関する一般則を提唱する論文を発表した(Ghosh and Takahashi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 117, 14194 (2020))。また、本研究を通じて明らかにした細胞内環境における四重鎖構造の安定性とその予測に関する総説を発表することができた(S. Takahashi and N. Sugimoto, Chem. Soc. Rev., 49, 9439 (2020))。そして、複製反応に与える四重鎖トポロジーの影響から、細胞内でのワトソン-クリック型塩基対とフーグスティーン型塩基対の振る舞いを化学的に取り扱うことに成功し、こちらも論文を発表した(S. Takahashi and N. Sugimoto, Acc. Chem. Res., 54, 2110 (2021))。 一方で、複製反応の基質(dNTPやNTP)の取り込み効率と正確性についても興味深い知見が得られた。特に、分子クラウディング環境下では、ワトソン-クリック型塩基対が弱まる一方、塩基間のスタッキング相互作用が強まることで、塩基スタッキング依存的に基質が取り込まれることを見出した(Takahashi et al., RSC Adv., 10, 33052 (2020), Molecules, 25, 4120 (2020))。これらの成果は今後の新しい研究事業で引き継ぎ詳細を追求していく予定である。
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