研究課題/領域番号 |
17K01970
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
二村 友史 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (70525857)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / がん代謝 / 微小環境 |
研究実績の概要 |
近年、がんは微小環境(グルコース飢餓・低酸素などのストレス環境)において特殊な代謝機構(代謝可塑性)を獲得し、生存に必要なエネルギーを捻出していることが明らかになってきた。従って、微小環境におけるがん細胞の代謝可塑性の理解と制御はがん治療の開発につながる重要な課題である。本研究では、がん代謝を制御する阻害剤の探索や微小環境下で生存しうるがん細胞の代謝機構を解析し、新規抗がん剤開発への道筋を拓くことを目的とした。本年度は以下3つの項目について研究を行った。 (1) フラックスアナライザーを用いた代謝阻害剤の探索と活性評価:がん代謝を標的とする化合物の探索するため、エネルギー代謝のパラメータであるミトコンドリア呼吸活性と解糖能の変化、また代謝関連酵素の発現に着目したプロテオーム変化、の二つの表現型に着目したスクリーニング系を構築した。理研天然化合物バンクNPDepoの化合物ライブラリーよりスクリーニングを実施し、unantimycin AとNPL40330をミトコンドリア呼吸阻害剤として見出した。またこれらの化合物がミトコンドリアのどこを阻害するかを解析するため、セミインタクト細胞を用いた解析手法を構築し、それぞれ電子伝達系複合体IIIとIがその標的であることを明らかにした。 (2) 代謝可塑性の多様性検証:脳、膵臓、大腸、胃、腎臓など様々な組織由来の株化細胞20種類を栄養欠損培地や低酸素下で72時間培養したときの生存・増殖に与える影響を試験し、数種の細胞が微小環境に適応することを見出した。 (3) 微小環境選択的増殖阻害物質の探索とケミカルバイオロジー研究:微小環境に適応可能なセルラインの1つを用い、微小環境下で培養したときにのみ増殖阻害活性を示す物質を探索した。これまでにNPDepoの10,000化合物について評価を終了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フラックスアナライザーを用いたがん代謝の研究基盤(表現型スクリーニングおよびセミインタクト細胞を用いたミトコンドリア機能解析手法)を構築できた。これらの技術を用いた共同研究の成果を報告した(Chem Sci 2017)。微小環境選択的増殖阻害物質の探索ではまだ有望なヒット化合物が見いだせていないが、ユニークな代謝プロファイルを示すがん細胞の選出は進んでおり、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は微小環境選択的に増殖阻害を示す物質のスクリーニングに注力し、化合物ライブラリーおよび微生物培養液から高次評価に資する化合物を見出すことを目的とする。また微小環境に適応可能ながん細胞がどのように生存しているかを検証するため、主要経路の代謝物や核酸、アミノ酸など代表的な代謝物2~30種類をLC-MS/MSで一斉分析できる基盤を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)残額2万円であり、ほぼ計画通り予算を使用した。 (使用計画)H30年度は細胞培養器具(100千円)として培養シャーレやプラスチックピペット類を購入する。また細胞培養用の血清(100千円)は仔牛胎児血清を購入する。代謝解析関連消耗品(400千万)としてフラックスアナライザーやLC-MSの消耗品購入に充てる。タンパク質機能解析に必要な分子生物学試薬(抗体やassay kit、siRNAなど)の購入に一般試薬類(400千円)を計上した。
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