近年、がんは微小環境(グルコース飢餓・低酸素などのストレス環境)において代謝可塑性を獲得し、生存に必要なエネルギーを取得していることが明らかになってきた。従って、微小環境におけるがん細胞の代謝可塑性の理解と制御はがん治療の開発につながる重要な課題である。本研究では、がん代謝を制御する薬剤の探索や代謝可塑性を解析する研究基盤を構築し、新規抗がん剤開発への道筋を拓くことを目的とした。 がん代謝を解析するにあたり、適切なin vitroのモデル系がなかったことから、様々な組織由来の株化細胞20種類について、代謝能の違いや低栄養・低酸素下での生存・増殖に与える影響を試験し、骨肉腫MG-63細胞など、微小環境に適応するがん細胞を複数見出した。そこで微小環境下で培養したときにのみ、MG-63細胞に増殖阻害活性を示す物質を探索し、微生物培養液から目的の活性物質を見出した。 またがん代謝を標的とする化合物の探索するため、エネルギー代謝のパラメータであるミトコンドリア呼吸活性と解糖能の変化、また代謝関連酵素の発現に着目したプロテオーム変化、の二つの表現型に着目したスクリーニング系を構築した。理研天然化合物バンクNPDepoの化合物ライブラリーよりスクリーニングを実施し、unantimycin AとNPL40330をミトコンドリア呼吸阻害剤として見出した。これらの化合物がミトコンドリアのどこを阻害するかを解析するため、セミインタクト細胞を用いた解析手法を構築し、それぞれ電子伝達系複合体IIIとIがその標的であることを明らかにした。 さらにこの解析手法を応用し、オートファジー誘導物質Aumitinや、がん幹細胞の腫瘍塊形成阻害物質NPD2381、植物への塩耐性付与物質FSL0260の作用機序を明らかにした。
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