研究課題/領域番号 |
17K01971
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
藤井 聡 山形大学, 医学部, 教授 (80173384)
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研究分担者 |
後藤 純一 山形大学, 医学部, 助教 (70435650)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 長期増強 / 海馬θ波 / アデノシン受容体 / 抑制性応答 / IP3受容体 / 海馬CA1シナプス |
研究実績の概要 |
本研究では、低周波シナプス入力の周波数や重畳する高周波バーストの発数を変化させ、海馬CA1シナプスにシナプス可塑性を誘導し、それに対する内因性adenosineの作用様態を検討している。即ち、海馬CA1領域の興奮性シナプスに100Hz 2~4発のバーストを1-5Hzの低周波律動に重畳させて入力すると、興奮性シナプス間隙や周囲の抑制性ニューロンシナプス間隙でadenosineやglutamate濃度が上昇してA1ないしA2受容体およびIP3受容体を活性化させるのか?それがどのようにCA1ニューロンに誘導されたシナプス可塑性、LTP(長期増強)・LTD(長期抑圧)にどのように作用するか?である。 本研究で現在までに以下①~④の実験事実を明らかにした。 ① 海馬CA1シナプス経路に2~4発の高周波バーストを入力すると発数に応じてLTPが増大した。② adenosine A1 受容体阻害薬は抑制性ニューロン応答を増強した一方で、バースト刺激により誘導されるLTPを増強した。③ 海馬CA1シナプス経路に単発1Hzの低周波律動で入力刺激するとLTPが誘導され、これにadenosine A1受容体およびIP3受容体が関与していたが、adenosine A2受容体の関与を認めなかった。④ 2~4発の高周波バーストと0.5,1,2,5Hzの低周波律動を重畳させて1分間入力した。誘導されたLTPは低周波入力が0.5および1Hzではバースト数に依存して増大し、2および5Hzでは依存しなかった。 以上より、海馬CA1ニューロンに低周波律動と高周波バーストを重畳させて入力すると、興奮性ニューロン周囲にadenosineとglutamateが放出・蓄積され、シナプス後ニューロンでadenosine A1受容体および代謝型glutamate受容体・IP3受容体を介してLTP誘導に作用する、と推測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、海馬CA1ニューロンに低周波律動に高周波バーストを重畳させてシナプス入力し誘導されたシナプス可塑性の性質を研究した。 まず、海馬CA1シナプスに0.5-5Hzの低周波律動に2-4発の100Hzバーストを重畳して入力しシナプス可塑性を検討した。単独2-5発のバースト刺激を20秒ごとに3回与えると、3発以下では誘導されなかった。4発のバースト刺激はLTP誘導の閾値刺激であり入力後にEPSPとPopulation spikeは何れも120%前後増大した。これにadenosine A1受容体阻害薬を与えて計測すると、2発バーストによる抑制性ニューロン・シナプス応答・Paired-pulse inhibitionが強まった反面、4発バーストで誘導されるLTPは各パラメーターで140%前後に増大した。従って、高周波バーストで誘導されるLTPに対して、adenosineが抑制性介在ニューロン機能調節をして関与する、という仮説は否定された。 次いで、2-4発の高周波バーストを0.5-5Hzの低頻度律動に重畳させて60秒間シナプス入力した。低頻度律動が0.5-1Hzの場合、EPSPとpopulation spikeは何れもバーストの発数に比例してLTPの振幅が増大した。これら高周波バーストを5Hzの低頻度律動に重畳させた場合EPSPとpopulation spikeではLTPが誘導されたが、バースト発数には依存しなかった。一方で、2Hzの低頻度律動の場合はEPSPとPopulation spikではLTPそのものが誘導されなかった。これらの結果において、バーストと低頻度周波律動を混在させてシナプス入力した場合、低頻度周波律動0.5-1Hzではバースト入力に対応したメカニズムがLTP誘導に関与し、低頻度周波律動2-5Hzではバースト波がLTP誘導に関与しないことが認められた。
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今後の研究の推進方策 |
海馬脳波を計測すると、低周波律動に高周波バースト波が混在した錐体ニューロン活動と、それに伴う高周波の抑制性介在ニューロン活動が見られる。深い睡眠時には2-4発のバーストが0.5-1Hzの低頻度入力に重畳し、レム睡眠時や覚醒時には海馬θ波とよばれる2-4発のバーストが5Hzの低頻度入力に重畳する。本研究では、海馬スライス標本でCA1シナプスに海馬脳波パターンでシナプス入力してLTP/LTDを誘導し、そのメカニズムにadenosine A1受容体およびIP3受容体の活性化が関与することを明らかにしつつある。 平成31年度の本研究では、低周波律動と高周波数バーストが混在したシナプス入力で誘導されるCA1シナプス可塑性へのadenosine A1ないしIP3受容体関与メカニズムの解析を深化させる。その概要を以下に述べる。 1Hzの低周波律動で60秒間シナプス入力するとCA1ニューロンにLTPが誘導され、これに高周波バースト波を重畳させると、その発数に応じてLTPが誘導される。同じパターンでで240秒間シナプス入力するとCA1ニューロンにLTDが誘導される。また、5Hzの低周波律動に高周波バーストを重畳させ(海馬θ波)シナプス入力すると60秒間でLTPが誘導され、240秒間でLTPが減弱する。即ち、過年度の研究よりも広範囲にシナプス入力パラメーターを変化させ、実際の海馬脳波に近づけ、LTPおよびLTDなどのシナプス可塑性を誘導する。そして、adenosine A1ないしIP3受容体の活性化に依存して興奮性ないし抑制性シナプス活動が調節され、これらLTPおよびLTD誘導に関与する、という仮説を実証する。 本最終年度おいては、この仮説を研究計画書に記載した実験手法で検討し、低周波とバーストが混在した入力刺激で誘導する海馬CA1シナプス可塑性のメカニズムを明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物および試薬の大幅な値上がりがあり、当初見込んでいた研究費において物品費が増大したため。
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