海馬で観測される同期的リズム活動であるシータ波は、学習・記憶能力と高い相関があることが知られている。本研究では、アルツハイマー病発症の早期検出を目的として、病態モデルの3xTgADマウスにおける学習中および自発行動中の海馬シータ波を解析し、発症前から発症初期にかけて検出されると予想される海馬シータ波の異常と学習・記憶障害との相関を解析する事を目的とした。 当初予定していた音を用いた瞬目反射条件付けでは対照群と3xTgADマウスの両方が良好な学習を示さなかったことから、これまでに報告のない回転ホイール自由走行課題を用いて検討した。この課題は、走行用ホイール内に入れられたマウスが毎日5分間自発走行することを学習する課題である。走行はマウスの自発性に委ねられているので、小脳などの運動中枢に障害がある場合のみならず、自発性に関わる上位中枢に障害がある場合も検出できることが期待できる。本課題を用いてまずは、4ヶ月齢の学習を調べたところ、対照群のマウスは毎日の訓練によってホイール内で走ることを学習し4~5日で定常状態に達したが、3xTgADマウスは学習はするものの対照群に比べて学習速度は顕著に遅かった。さらに、この学習障害は2ヶ月齢において既に有意であることから、これまで当該マウスにおいて報告されてきた学習障害の中では、最も早期の学習障害であると考えられる。 そこで、上記の自発走行学習課題が障害を受け始める2-4ヶ月齢の3xTg-AD miceの海馬局所場電位を解析したところ、ウレタン麻酔後の海馬シータ波が対照群のマウスに比べて有意に増強していることを発見した。今後は海馬に加えて、自発性に関わると予想される前頭前野の解析が重要であると考えられる。
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