研究課題/領域番号 |
17K01975
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
森 琢磨 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (70545798)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 自閉症 / 抑制性シナプス |
研究実績の概要 |
社会性行動の低下が観察されるNeuroligin3R451Cミスセンス変異導入マウスを対象として、電気生理記録を行った。社会行動に関係すると報告されている内側前頭皮質の5層錐体細胞からシナプス入力を記録したところ、興奮性入力の増強と抑制性入力の減弱が観察された。微小シナプス電流の解析から、興奮性入力の増強には、機能的シナプスの増加が関わっていることが明らかになった。一方で、抑制性シナプス入力の減弱については、機能的シナプス数の変化ではなく、パルブアルブミン免疫陽性神経細胞の興奮性が変化したためであるという結果が得られた。また、パルブアルブミン免疫陽性細胞の数に変化がなかったことから、パルブアルブミン陽性細胞の生理的変化が社会行動と関わると考えられた。同様の実験をNeuroligin3ノックアウトマウスを対象として実施したところ、興奮性シナプス入力および抑制性シナプス入力に変化は観察されなかった。またパルブアルブミン免疫陽性細胞の興奮性にも変化が見られないことが明らかになった。 Neuroligin3R451Cミスセンス変異は、タンパク質の異常構造を原因とするタンパク質の分解が行われることが知られている。その結果、Neuroligin3R451Cタンパク質は野生型Neuroligin3のおよそ10%程度しか発現していない。Neurolign3R451Cミスセンス変異導入マウスでは生理的な異常が観察され、ノックアウトマウスではその生理異常が観察されなかったことから、Neuroligin3R451Cミスセンス変異は機能獲得型変異であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、抑制性神経細胞の働きと抑制性細胞がつくりだす律動的な神経活動が自閉症の発症にどのように関わっているのかを明らかにすることを目的としている。研究代表者はこれまでに、Neuroligin3R451Cミスセンス変異導入マウスが示す社会行動異常を詳細に解析し、合わせて、その神経細胞の電気生理特性を解析している。研究実績の概要の項目に記した通り、社会行動に関わる脳領域である内側前頭皮質において、興奮性シナプスの増強と抑制性シナプスの減弱、そしてパルブアルブミン免疫陽性細胞の興奮性の低下が観察されている。このパルブアルブミン免疫陽性細胞は、律動的神経活動を生成する上で中心的な役割を果たす細胞であることから、本研究計画が立脚する仮説が正しいことが実証されたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までにNeuroligin3R451Cミスセンス変異導入マウスの内側前頭皮質において、抑制性シナプスの減弱、そしてパルブアルブミン免疫陽性細胞の興奮性の低下が観察されている。このことは、律動的神経活動に何らかの異常が見られることを示唆している。現在は、脳スライス標本からの電気生理活動を記録し、律動的神経活動の特性を解析している。また、Neuroligin3R451Cミスセンス変異導入マウスにおける生理特性の変容が、Neuroligin3ノックアウトマウスでは観察されなかった。この機能獲得型変異による異常が、遺伝子の機能欠失によって回復する可能性を検証すべく、Neuroligin3R451C変異を後天的に欠失させたマウスの解析を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の研究から、計画立案時には想定されていなかった、遺伝子変異の機能獲得型変容が明らかになった。この結果を学会発表したところ、自閉症様行動の治療可能性に関するアイディアを得た。本研究計画をより質の高いものにする上で必要な、これら実験を実施するために必要な経費が必要となった。年始からの新型コロナウイルス感染症の影響により、物品の購入が困難な状態になったため、繰越金額が発生した。
|