研究課題
平成30年度は左下前頭回/三角部や左運動前野外側部の脳腫瘍患者の脳構造に関する検討を行った。我々はこれまで、左下前頭回/三角部や左運動前野外側部の脳腫瘍患者では統語処理を支える脳内ネットワークの機能低下が、局所的ではなく大域的に起こることを報告した。このような大域的な変化が構造面に及ぶ可能性について、前年度より取り組んでいる皮質構造解析(Surface based morphometry:SBM)法を用いて解析した。その結果、局所の神経膠腫により大脳皮質厚や皮質構造の複雑さ(皮質フラクタル次元)が脳全体において変化することが明らかとなった。この結果は、脳局所の障害により、脳内ネットワークの機能的結合性が大域的に変化するだけではなく、構造的変化も大域的に惹起されることを示した。また、昨年度に引き続き、昭和大学神経内科の物忘れ外来を受診した患者を対象に、認知機能と脳構造の関連性について調査した。本年度は、言語性記憶を含めた記憶能力と、脳構造の関係に加えて、認知機能との関連が推定されている脂質代謝の関係についても調べた。記憶機能はWMS-Rを用いて評価した。大脳皮質構造はSBM法を用いて皮質厚と脳回指数(Gyrification Index: GI)を計測した。脳回指数は局所の脳回の曲率を計測した。WMS-Rの下位項目と脂質代謝マーカーの相関解析の結果、HDLと論理的記憶I、視覚性対連合I/IIとの間に正相関を認めた。SBMの結果、血清HDLC値と両側の島皮質と下前頭回のGIとの間に正相関を認めた。最後に、左側の島皮質と右側の下前頭回のGIと論理的記憶Iの得点との間に正相関を確認した。以上の結果から論理的記憶には左右の両側の大脳半球の関与が重要であることが明らかになった。この結果は脳内ネットワーク全体において構造的変化が認知機能と関連することを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、これまで用いたfMRIやSPECTといった脳機能に対する解析に加えて、SBMという最新の解析手法を患者脳に対して用いる試みを行ってきたが、認知症などの神経変性疾患だけではなく、脳腫瘍のような占拠性病変を有する患者においても適応できることが分かった。
SBMが精神疾患や変性疾患だけではなく、占拠性病変においても適応可能であることが分かった。また、使用上の注意点も確認できた。今後は、変性疾患だけではなく、脳腫瘍による大脳皮質構造の変化と脳内ネットワークの関係について解析する予定である。
論文のオープンアクセスにかかる費用(2019年3月出版)を翌年度分として請求する計画である。また、今後も国内・国際学会発表、論文発表、解析に用いる計算機購入などに充てる予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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