脳梗塞や脳内出血といった脳卒中患者では発症後に四肢の運動・感覚麻痺や言語障害を生じるが、リハビリテーションの介入により機能が軽減、回復することが知られている。しかし、損傷を受けた脳領域が他の脳領域にどのような変化をもたらし、機能が回復する際に脳内でどのような変化が生じているかはほとんどわかっていない。このような障害の程度やリハビリの効果の個人差についてもほとんどわかっていない。 本研究ではヒトと相同の脳構造を持つマカクサルを用い、ヒトで行うことのできない局所薬剤注入法や脳損傷実験などの侵襲的実験法を用い、脳全体の変化を繰り返し観測することが可能な磁気共鳴画像装置(MRI)を組み合わせることで、局所的な脳領域の不活化や損傷が脳全体のネットワークや構造、そして行動にどのような影響をおよぼすかを観察することを目指した。 実験には2頭のアカゲザルを用いた。サルを専用のチェアに座らせ、採餌課題を行うようにトレーニングした。採餌課題ではブリンクマンボードと呼ばれる小さなスリットの入ったボードに小さな固形餌を入れ、サルは人差指と親指を使ってスリットの中から固形餌を採るようにした。また、障害前のコントロールとしてMRI画像(構造画像、安静時機能画像、拡散強調画像)の撮像を麻酔下にてそれぞれで3回行った。 麻酔下での機能的MRIではBOLD信号の低下や麻酔薬の影響を除外できない。そのため申請者は本研究を覚醒下MRIでの研究に発展させるために、国際共同研究加速を申請し、採用された。米国NIHにて覚醒MRI実験と組み合わせるために準備を行ったが、サルのトレーニングなどに時間を要するためにNIHに異動し、研究を継続して行うこととした。そのため本課題はやむなく廃止することとしたが、研究は発展的に継続して行っていく。
|