研究課題
母性行動を一度経験すると、次回の母性行動が即時に発動されることが知られている。本研究は、この現象が、経験という情報の脳内保持によることを明らかにすることを目的とする。平成30年度では、この現象がいわゆる一般的な記憶現象(たとえば空間記憶)と同様のシナプス可塑性現象を細胞基盤とする可能性について、さらに検討を重ねた。この現象(以後、母性記憶)には、出産後から母性行動を経験している3日間の蛋白合成が重要であるが、蛋白合成阻害剤投与を1日間のみにし、阻害作用を調べたところ、1日間のみの投与では母性記憶形成に対する阻害効果は不十分であった。また、母性記憶形成時に起こる報酬系におけるシナプス数の増加は、出産後から3日間の蛋白合成阻害により、いずれの部位においても阻害された。母性行動の経験時の蛋白合成が、母性記憶形成に必要なシナプス数の増加に必須であることが分かった。また近年、記憶形成に時計遺伝子が重要な働きをもつ可能性が言われているが、母性記憶形成に時計遺伝子が関与するか否かは全く分かっていない。そこで、母性記憶と時計遺伝子との関係を明らかにする実験に着手した。この実験では、これまでとは異なるマウス種を用いるため、まず、野生型と時計遺伝子改変マウスの母性行動を観察した。マウスを明暗条件下におき、出産数日前から出産後2週間までの母性行動をビデオシステムを用いて記録、解析した。その結果、野生型マウスと時計遺伝子改変マウスの間で母性行動パターンの差異が認められた。現在、これらのマウスを用いて母性記憶の観察を進めている。
3: やや遅れている
時計遺伝子改変マウスの行動リズムを解析するために、行動リズム解析装置の設置を行っていたが、大阪北部地震で装置が故障し、再開までに時間を要した。また、動物実験室の移転のため、実験が遅れた時期があった。
時計遺伝子改変マウスの母性記憶の形成について解析を進める。
移転した動物実験室で、動物飼育のための消耗品があらたに必要になることが判明したため、次年度使用額が生じた。
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