本研究では、リナロール香気の有する抗不安効果の検証及び、その脳神経回路基盤の検証を行った。リナロール香気誘発性抗不安効果は嗅覚遮断により消失することから、リナロール香気により惹起された嗅覚入力が抗不安効果をもたらすことが明らかになった。またベンゾジアゼピン系拮抗薬事前投与によりこの抗不安効果が消失することから、リナロール香気が内在性ベンゾジアゼピンを介して抗不安効果をもたらすことが明らかになった。これらの研究成果は学術誌に投稿・受理された(Harada et al. Front Behav Neurosci 12:241 (2018)。この成果はNew York Times紙等内外のメディアで広く取り上げられ大きな反響を得た。更に不安関連行動の発現をコントロールするオレキシン含有神経のリナロール香気誘発性抗不安効果に対する影響を明らかにするため、オレキシン前駆体であるプレプロオレキシン欠損マウスを用いて香気誘発性抗不安効果を検証した。その結果、オレキシン欠損マウスでも野生型マウス同様、リナロール香気による抗不安効果は消失せず、オレキシン神経系はこの抗不安効果の発現に必須ではないことが明らかになった。リナロール香気誘発性鎮痛でオレキシン神経系が必須な役割を果たすことと考え合わせると、リナロール香気刺激はオレキシン神経依存性の鎮痛経路とオレキシン神経非依存性の抗不安経路を独立に活性化することができることが示唆された。更にリナロール香気暴露で活性化される脳領域を同定する為にリナロール香気暴露後、神経活性化マーカーc-Fosの発現を免疫組織化学染色法で検証したところ、前頭前皮質、視床中心核、中隔核などでc-Fos 蛋白質の発現がリナロール香気暴露で減少する傾向が観察されたが、有意な変化は観察されなかった。
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