研究課題/領域番号 |
17K01994
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
稲瀬 正彦 近畿大学, 医学部, 教授 (80249961)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 時間認知 / 前頭連合野 / 運動前野 / 大脳基底核 / 神経細胞活動 |
研究実績の概要 |
本研究は、外界の認知や行動制御に不可欠な、時間情報処理に関わる神経基盤を、神経細胞活動レベルで解明することを目的としている。本研究では、我々が見出した、時間認知に関わる時間計測過程で機能しているフィルタリング機構と、他の研究者が報告している、運動制御における時間再生過程で機能する漸増活動機構との、機能分担や機能連関について検討する。この目的のため、視覚刺激の時間知覚と運動待機中の時間再生という二つの時間計測過程を含有する行動課題を開発して、課題遂行中のサルの前頭連合野や内側運動前野、大脳基底核などの神経細胞活動を記録し、解析する予定である。 平成29年度は、まず上述した視覚刺激の時間知覚と運動待機中の時間再生の二つの時間計測過程を含有する行動課題を開発して、制御システムを整備した。課題遂行のため、動物の眼前に、視覚刺激提示用のモニターと、モニター下に押しボタンを縦に二個配置したパネルを配備した。課題では、まず動物がパネルの下のボタンを押すと試行が開始し、1秒後にモニター中央に緑の四角(C1)が異なる持続時間で提示される。その後、1秒間の遅延期間をはさんで、モニター中央に赤の四角(C2)が提示される。動物が、C2の提示開始から、C1の提示時間に基づいて定められる待機期間が経過した後に、下のボタンを離して上のボタンを押すと正しい試行となる。この課題では、視覚刺激C1の提示時間の計測と、C2提示開始後の運動待機期に内部に記憶した時間の再生とが要求される。 上述した課題制御システムを整備した後に、1頭目の動物を課題を遂行できるように訓練し、大脳皮質前頭連合野と内側運動前野、および大脳基底核線条体からの神経細胞活動記録の準備を整えた。同時に、2頭目の動物の訓練を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず必要な課題制御システムを整備して、1頭目の動物の訓練を開始した。課題におけるC1提示時間を、0.8秒、1.6秒、3.2秒のいずれかとし、それぞれに対応するC2提示開始後の運動待機時間を、3.2~4.8秒、1.6~3.2秒、0.8~1.6秒と定めた。まずゆるやかな条件から訓練を開始し、徐々に条件を厳しくして訓練を進めてきた。定めた条件で、80%を越える正答率で課題を遂行できるようになった。提示時間の細かな識別や比較的長い運動待機期間が要求される、動物にとってはかなり困難な課題であるが、訓練の成果がきちんと得られた。大脳皮質前頭連合野と内側運動前野、および大脳基底核線条体からの神経細胞活動記録の準備を整えた。しかし、準備に時間がかかり、年度内に記録実験を開始できず、研究課題の遂行がやや遅れていると判断する。 平行して、2頭目の動物の訓練を開始した。1頭目と同様の手順で訓練を進めていて、2頭目も緩やかな条件ながら、C2提示開始後に3秒以上、運動待機できるようになってきている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、十分に課題を遂行できるようになった1頭目の動物からの神経細胞活動の記録実験を開始する。主な記録領域は、前頭連合野では主溝の背側部と腹側部、内側運動前野では補足運動野と前補足運動前野、大脳基底核の線条体では尾状核の吻側部と被殻の背側部とする。記録する領域は、開頭時の脳溝の走行や神経細胞の自発発火活動パターン、視覚や体性感覚刺激への応答、微小電流刺激への反応などにより推定する。記録実験を進めながら、神経細胞活動の解析を進める。解析では、保存したデータから単一神経細胞活動を検出した後に、まず課題関連活動の解析、特に時間計測期間中の一過性活動や漸増活動の有無に着目して解析を進める。 また、2頭目の動物の訓練を継続し、本年度の後半には、この動物からの神経細胞活動の記録実験を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
記録実験の遂行がやや遅れたため、次年度使用額が生じた。次年度は、記録実験を精力的に遂行する予定なので、記録実験に用いるタングステン電極等に研究費を使用する予定である。
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