研究課題/領域番号 |
17K01996
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小林 琢磨 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (80582288)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | wearable device / ウェアラブルデバイス / motor cortex / 運動野 / free will / 自由意志 / implantable probe / 脳内埋植型 光プローブ |
研究実績の概要 |
体を思い通りに動かすこと、すなわち発話や道具使用などを可能にする随意運動の発露は文化・文明の礎となる大切な脳機能である。我々動物は、このような運動をすることでのみ他者や外界と関与する。随意運動の発露には大脳皮質運動野が重要な役割を果たしていることが知られ、運動野では運動を開始する直前に実際の運動より早く運動準備電位が生じる。この運動開始前の神経活動は適切な行動の企画と選択に関与すると考えられ、特定の運動は運動野の特定の神経細胞集団によってもたらされると考えられるが、そのような集団の特定と、その動的な活動様式には未だ明らかになっていないことが多い。そこで本研究では、大脳皮質運動野において随意運動をもたらす神経活動をデコードすることを目的とし、自由行動下の動物の左右大脳半球の運動野領域“全体”の“個々”の神経細胞の活動をリアルタイムでイメージングすることが可能なwearableデバイスを新規に開発する。そしてこれを実際に自由行動下の動物の生体脳で運用する。これにより、動物が自らの意思(“自由意志”)で特定の随意運動を想起、選択して、発露する際に要する神経細胞集団(cell assembly)を特定し、その実体と実態を明らかにすることを目指す。 具体的には各年度において下記を実施する。 (ⅰ)現在試作を始めているhead-mounted laser camera(HLC)を完成させる。 (ⅱ)行動計測装置を試作し、(ⅰ)を用いてマウス全運動野の絨毯イメージングを行う。 (ⅲ)得られたイメージングデータを網羅解析する。 本年は当該研究の初年度である。まず、自由行動下マウスの、両側運動野の全ての神経細胞活動を解析することを目的とし、広域・高深度でリアルタイム蛍光イメージングができるwearableデバイスとして、HLCのプロトタイプを試作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスは運動野が大脳皮質の脳溝に隠れておらず、ほぼ全領域が露出していて平坦である。また遺伝子改変系統を使用する事ができる。このような利点から本研究ではマウスを使用している。神経活動はCa2+指示蛍光タンパクで可視化できる。このタンパク質を興奮性/抑制性の神経細胞種特異的に発現するよう遺伝子改変されたマウス系統を用いた。 動物を飼育しながらデバイスを頭部に設置して長期観察するには配線が邪魔になる。コネクタなど繊細な電装パーツで脱着しようとすると故障やノイズの原因となる。このような問題を解決するため、HLCのカメラ部はスペーサ部と機械的に脱着できるよう設計した。スペーサ部は観察窓を備えるため、開頭手術後に頭部に慢性留置すると顕微鏡下でも脳表観察できる。そして計測時のみカメラ部を装着する。これでマウスはストレス無く飼育・繁殖でき、長期的な断続観察が容易となった。行動に伴いHLCは一緒に動くため振動による映像の乱れはほぼ発生しないが、生じても解析時に修正できる。HLCのカメラ部は励起光源系と蛍光撮像系を備える。励起光の照射はレーザ発振装置と光ファイバで実施できるが、広範囲照射のために大口径ファイバ、あるいは複数本のファイバを使用するとマウス自由行動が妨げられる。また将来の無線化を考慮すると好ましくない。このため、励起光源系は小型レーザ発振素子を用いて独立駆動系とした。また、調光機能を備え状況に応じ励起光加減を可能とした。蛍光撮像系には低電力・小型で発熱が少ないCMOSイメージセンサを用い、特定波長蛍光のみ透過するフィルタを備え蛍光撮像できるよう設計した。また大脳皮質の浅部から深部まで全焦点とするdeep-focusレンズを備え、レンズバレル調節で視野変更を可能とした。以上の結果、当初の予定通り自由行動下マウスの神経活動を蛍光強度変化として可視化する新しいデバイスの試作機が完成した。
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今後の研究の推進方策 |
マウスに特定の随意運動のみを生じさせ、それを高効率で再現性良く計測するために適した行動計測システムを構築する。そして構築したシステムを用いてHLCを運用し、自由行動下マウスの特定の随意運動時にのみ生じる両側運動野の全ての神経細胞活動を蛍光イメージングによって計測する。 動物は実験者の思惑通りには行動しない。よって適切な随意運動の企画・選択・発露過程を解析するには、完全に自由気ままに行動させるのではなく知覚情報を制御すると同時に動きを制限する装置を用いる。具体的には、必要な視覚、聴覚情報を人為的に与えることが可能なコクピットにマウスを乗せ体躯を包み、一部の肢の特定運動のみ出来る状態にして、HLCを使って神経活動をイメージングできる計測システムを新たに構築して使用する。計測時にマウスの運動はコクピットの両側方よりそれぞれ別カメラで撮像し、与える合図と動きと神経活動を比較できるようにする。以上の方法により、マウス両側運動野で蛍光イメージングができ、肢の特定の随意運動に相対する特定のcell assemblyの活動を抽出することを試みる。様々な外科術式を検討した結果、マウス脳へのスペーサの長期安定設置と最低でも3ヵ月以上の長期断続イメージングが可能であることを確認した。現状のHLCの視野は1機ですでにマウス両側運動野のほぼ全域を撮像できるが、さらに広域の領野間で神経活動の伝播を観測したいという要求のためにはHLCを並列使用して対応する。小さく軽量のため理論上4機程度までC57B6マウス頭部で並列使用しても自由行動を妨げない。これまでマウス自由行動中に配線からノイズは混入していないが、計測環境に応じて高周波イメージングデータ伝送に耐えるシールド配線、かつ動物行動を妨げない太さ、軽量で柔軟な配線の使用を随時検討して対応したい。
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