生態資源利用は,食料や収益の供給といった根幹的なサービスだけでなく,景観や文化の形成などの多面的な役割を持つ。我々はこうした役割から多くの恩恵を享受し続けるためにも,その持続性の解明が重要である。資源利用の持続性を検討するためには,それを脅かすリスクの存在を無視できない。本研究では,「今日まで持続される生態資源利用は,過去にリスクにより被災した後,克服し再建を遂げた経験を持つ」という仮説をたてた。この検証のためには,経験した災害の種類や,その発生年・発生場所・再建期間を明らかにする必要がある。加えて研究対象地には,次の3条件を具備した地域を選択する必要がある。1)原資の入手から収穫までの生産フローが一つの地域内で完結している2)災害の発生地点の座標が明確で,かつその点上に情報の蓄積がある3)利用される生態資源は複数地域で普遍的に扱われる。これらを満たした,タイ国スラータニー県バンドン湾のカキ養殖を選択した。対象地域では,災害に関する情報の蓄積が不十分という課題点があった。そのため,直接情報を収集できる手法として現地での調査を行った。調査は次の3項目である。 1)アンケート調査:災害に関する項目を17問設定し,養殖業者へアンケート用紙を配布した。2)インタビュー調査:1)の補完として,養殖業者・仲買業者・小売業者を対象に行った。3)養殖区画の巡検調査:区画や施設の設置状況の把握を行った。 結果、研究対象地での資源利用の持続性は,最頻の災害である洪水に対して,①生態資源であるカキが耐性を有する生活史を持ち枯渇しないこと②利用者である養殖業者が被災経験を通して,収益をもたらす資源量が回復するまでの時間を待機できる備えがあり,離職・廃業を防いでいること。以上によって生態資源と資源利用者の共利共生関係が維持されてきたことであると結論された。
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