研究課題/領域番号 |
17K02003
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山崎 太郎 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 教授 (40239942)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 芸術諸学 / 独文学 / 社会学 / 西洋史 |
研究実績の概要 |
本研究の初年度は、基礎文献の入手と解読等に研究時間を傾注し、本テーマの土台と出発点となる基礎認識を固めた。具体的な成果としては ①1900年前後に出版された英語による文献の復刻版数点を購入、《パルジファル》アメリカ初演(1903年)に向けて、当作品の内容がアメリカの聴衆にどのように啓蒙・紹介されたのか、とりわけプロテスタント・カトリック両陣営の宗教関係者の間で当作品の宗教性がどのように受けとめられたか(会衆に善き感化を及ぼす作品か、それとも宗教的内容を舞台化によって冒涜しているのか等々をめぐる賛否の論争)などを具体的に知ることで、《パルジファル》初演が当時のアメリカの社会において、大きな関心事となっていた事情を確認することができた。 ②ここ数年でインターネット情報網がめざましく発展したことの恩恵に浴し、多くの関連研究文献をダウンロード・解読することで、①で挙げた復刻版文献への着目・購入をはじめとする多くの有益な情報を得ることができた。とりわけDaniela Smolov Levy氏が2014年5月にスタンフォード大学に提出した博士論文DEMOCRATIZING OPERA IN AMERICA, 1895 TO THE PRESENT(全397ページ)が昨年、インターネット上に掲載されたことで、これまでの文献では具体的な論及に乏しかったヘンリー・サヴェージ巡業歌劇団の活動について詳しく知ることができた。とりわけ同論文では、同歌劇団が1904年から翌年にかけて行なった《パルジファル》北米巡業公演についても30ページ以上にわたる紹介と分析があり、切符の価格、具体的な巡業地と日程等のデータを含めた情報を得ることができる。海外でも同じテーマが着目されつつあり、日進月歩の状態にあることの証左だが、本研究もこうした研究成果をしっかり踏まえ、独自の着眼点と方法に則って進めるよう留意したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
学内のカリキュラム・組織改革のため、新たな形態で始まった授業等の学務および新組織の運営に追われ、本研究の初年度後半に計画したドイツおよびアメリカ大陸への出張を次年度に延期せざるをえなかったものの、研究に多くの時間を割けない制約多き条件のなかで、資料の収集および解読と整理には一定の成果をあげることができた。とりわけ、1903年~1905年前後のアメリカにおける《パルジファル》受容の様相を当時の復刻文献を通して具体的に知ることができたこと、Levyの博士論文を通して、ヘンリー・サヴェージ巡業歌劇団による同作品の北米大陸巡業公演について詳しい情報を得られたことは大きな収穫である。その他、1903年のメトロポリタン歌劇場による初演に向けての準備や様々な論評も数種の文献を通して、内容を知り、整理することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は《パルジファル》アメリカ初演及び北米巡業公演についての当時の新聞記事の収集を中心に進める。特に巡業公演については地方紙の記事を丹念に拾う必要があるが、Levy論文により特定された日程と公演地によって対象を絞り込むことが可能であり、古い時代の新聞に関しては欧米のアーカイヴがここ数年で飛躍的に進歩・充実してきているので、インターネットによる検索もかなりの程度可能であると見込まれる。この点についてはさらに、フォークナーの専門家で、古い時代の新聞メディアを文学研究に応用する手法で目覚ましい成果をあげている山根亮一准教授が今年度から同じ職場に着任したので、その助言を仰げるのも心強い。 このような準備を進めたうえで、今年度は《パルジファル》のアメリカ初演をめぐるドイツ側・アメリカ側両者の反応と世論、そしてメトロポリタン歌劇場のプロダクションの詳細を突きとめ、初演時に用いられた楽譜や演出ノート、写真等の関連資料を収集すべく、ドイツとアメリカにそれぞれ出張する。アメリカではさらに巡業公演が行われた数都市の図書館・役所・劇場等の公共施設を訪れ、現地にしかない資料の収集を含めた実地調査を行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内のカリキュラム・組織改革のため、新たな形態で始まった授業等の学務および新組織の運営に追われ、本研究の初年度後半に計画したドイツおよびアメリカ大陸への出張を断念せざるをえなかった。本年度は改めて、ドイツ・アメリカへの出張を複数回行なう予定である。
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