今年度から勤務先大学の部局長に就任したタイミングで学内外の大きな案件への対応に忙殺され、年度末に予定していたアメリカ合衆国への調査出張も直前に断念せざるを得なくなったが、以下の項目に関して研究を進め、論文~著書執筆・完成のめどを立てることができた。 ①膨大な新聞記事の新たな収集・整理と解読を地道に進め、ヘンリー・サヴェージ歌劇団に加え、メトロポリタン歌劇場のアメリカ東部各都市を中心とした巡業についても都市名と公演日を整理、さらにチケット代・客層・上演の方針とレベル等について両団体の比較を行ない、その特色を明らかにした。②カナダやアメリカ中西部~西部を含めた地方紙の記事を丹念に追いながら、公演のあった地域ごとの広報宣伝や啓蒙活動、観客のドレスコードや幕間の食事等の風俗的側面や公演後の批評記事の傾向などを比較・検証することで、《パルジファル》巡業公演が20世紀初頭のアメリカ社会の様相を映し出す一大文化現象にほかならないことを具体的な事例とともに裏付ける手がかりを得た。③本研究の対象とするのは1903~1905年の《パルジファル》公演であるが、そこに至る作品理解の醸成経過を追うため、1882年のドイツ・バイロイト音楽祭における《パルジファル》世界初演がアメリカ大陸においてどのように伝えられ、どのような関心を惹き起こしたのかをも遡って調査することが有益であると考えるに至り、アメリカにおける当時の新聞報道記事を可能な限り収集、解読を開始した。④アメリカの都市・地域ごとのオペラ受容や作品ごとの受容にも言及のあるDiGaetani/ Sirefman(ed.):Opera and the Golden Westほかの関係書を新たに購入、アメリカのオペラ風土の特殊性への理解を深めた。
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