研究課題/領域番号 |
17K02004
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
黒崎 卓 一橋大学, 経済研究所, 教授 (90293159)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 南アジア / 長期経済統計 |
研究実績の概要 |
本研究は、南アジア主要地域(現在のインド、パキスタン、バングラデシュ三国を指す;以下、単に「南アジア」と表記)における長期経済統計を整備し、それに基づいて南アジアの長期発展過程を実証的に明らかにすることを目的とする。本研究の目的を達成するため、①既存推計系列の再検討、②新たな史資料の発掘と吟味、③SNAの枠組みに沿った長期経済統計の推計、④推計系列を用いた長期発展過程に関する実証分析を進めている。 平成29年度には、まず研究体制を立ち上げた。続いて、国内研究会を3回開催した。平成29年度の第1回研究会では、ベトナムでの第二次産業・第三次産業の歴史GDP推計の専門家を招聘してインドでの作業に反映させるための議論を行い、プロジェクトの人口・労働担当者が独立前の労働力の部門別再推計結果の暫定報告を行った。第2回研究会では、プロジェクトの物価・賃金担当者が英領期インドの価格データについて、1861年から1920年についての作業結果を報告し、続いて、プロジェクトの独立後工業統計担当者が独立後のインドの製造業非組織部門(Unoragnized Manufacturing Sector)統計についての問題点を議論した。第3回研究会では、独立後のインドの金融発展史に関する外部研究者を招聘して、統計推計の際に留意すべき制度的・歴史的背景についての理解を深めたうえで、プロジェクトのバングラデシュ統計担当者が1947年のベンガル分断がもたらした人口面でのインパクトに関する定量的分析結果を報告し、プロジェクトの植民地期工業統計担当者が農村工業をどう定義しその統計を整備・利用するかについて報告した。 研究会に加えて、各担当者はインドやイギリスなどでの史資料収集を進め、研究成果を海外の研究者と共有し、そのコメントを取り入れた改訂作業を進めた。プロジェクトの経費を用いて担当者2名がインドに出張した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトでは、具体的には、(1)20世紀初頭から現在までの南アジアの経済統計を国民経済計算(System of National Accounts、SNA)の枠組みに沿って整備する、(2)1947年に英領インドが現在の南アジア三国に分割されて独立するまでの植民地期について、可能な限り現在の国境に対応した統計を推計する、(3)国内総生産(GDP)を構成する各部門間の連関、家計消費と生産活動間の連関、南アジア内部の地域多様性に焦点を当てつつ、100年を超える長期発展過程を明らかにするという作業を予定している。 これらの作業を、平成29年度にはおおむね順調に進めることができた。年度中に開催した研究会を通じて、克服すべき課題がより鮮明になった。GDPを構成する各部門や統計ごとに作業の出発点が異なるが、人口・農業など作業が進んでいる部門・統計については担当者が整備した長期経済統計推計の精度について吟味し、その推計が含意する長期発展過程が南アジア経済理解に対して持つ意味についての議論を開始することができた。既存の推計系列とのさらなる差別化が課題となる。推計作業中の部門・統計については、推計手法についての共通の理解を深め、プロジェクト全体で整合的な作業となるよう調整することが重要であり、ベトナムなどの経験はそのために有益であることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、国内研究会を継続して開催する。SNAの枠組みに沿った系列と、それを補足する系列に分けた最終成果物の構成を確定させる。進んでいる部門・統計については最終推計を確定し、SNA系列と、補足系列ごとに分けた製表作業を完了する。平成29年度が主に推計作業に充てられた部門・統計に関しては担当者が整備した長期経済統計推計を持ち寄り、精度の吟味と長期発展過程の含意を明らかにした上で、最終推計を年度内に確定する。作業が進んでいる部門・統計から、日英バイリンガル表記での作表作業と、付録に回す図表とを確定させる作業、そしてその解題の執筆にとりかかる。 これらの作業において、各担当者は研究成果を海外の研究者と共有し、そのコメントを取り入れた改訂を進める。プロジェクトの成果を披露し、国際的認知度を向上させ、この統計をベースにした国際共同研究の活性化を図るために平成31年度に開催を予定するインドにおける国際会議に向けて、準備に取り掛かる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたデータ入力・整理作業の経費が、国際共同研究の相手機関によって負担されたため。次年度使用額については、平成30年度助成金と合わせて旅費に使用する予定である。
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