本研究は、南アジア主要地域(現在のインド、パキスタン、バングラデシュ三国を指す;以下、単に「南アジア」と表記)における長期経済統計を整備し、それに基づいて南アジアの長期発展過程を実証的に明らかにすることを目的とする。本研究の目的を達成するため、①既存推計系列の再検討、②新たな史資料の発掘と吟味、③国民経済計算(System of National Accounts、SNA)の枠組に沿った長期経済統計の推計、④推計系列を用いた長期発展過程に関する実証分析を進めている。推計された長期経済統計は、アジア長期経済統計シリーズの一環として、記述編と統計編からなる刊行物にまとめられる予定である。 令和2年度には、プロジェクトの初年度に立ち上げた研究体制の下に、国内研究会を1回、国際会議を1回、それぞれオンラインで開催した。9月の国内研究会では、バングラデシュ(英領期、東パキスタン期含む)とパキスタン(英領期、西パキスタン期含む)の国民所得統計について吟味した。11月の国際会議では、長期農業統計についてのプロジェクトの成果を披露し、インド、パキスタンの専門家から詳細なコメントを得た。農業金融および農業流通に関してまだ改善の余地が大きいことが判明した。これらの研究会に加えて、プロジェクトの各担当者はインドやイギリスなどでの史資料に基づく統計推計に関する再チェック作業を進め、研究成果について海外の研究者からコメントを受けて改訂作業を進めた。令和2年11、12月に本研究費を用いてパキスタンに共同研究者が出張し、パキスタン農業金融統計の最新版を入手しその利用上の問題を明らかにするという成果を得た。 補助事業期間全体を通じて、①から④の作業を進めたものの、植民地期と独立後のリンク、推計作業の基となる原資料における定義の時間的変化やカバーする空間・業種のずれの処理などがまだ残された課題となっている。
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