本研究の目的は、フィリピンにおけるリプロダクティブヘルス法の事例から、現代社会における「宗教と政治の接触領域」の増大と、そこに生じる葛藤と調停の ための対話のプロセスについて、フィールドワークを通じて実証的に解明することである。 最終年度は、「カトリック教会による国家政治への介入」、「都市中間層のRH法への対応」、「カトリック教会と地方政治との関係」、「地方生活者のRH法への反応」の各項目について、7月と11月にフィリピン・セブ州で補充調査を実施した。その成果は、前年度までの調査で収集したRH法に関するデータと統合し、本研究における総合的なデータの整理と分析を行った。 そのうえで、前年度までに文献研究として行った現代社会における「宗教と政治の接触領域」という視座をさらに明確化し、接触領域の増大とそこに生じる葛藤と対話のプロセスについて、実証データを用いた分析と考察を行った。その結果、当初想定していた宗教と政治の接触領域における葛藤という対立軸に加え、都市と地方、新中間層と貧困層のRH法に対する対応の違いも明らかになった。またその対立を生み出しながら、同時に調停の主体ともなりうるカトリック教会の役割や戦略について、さらに詳細に検討する必要性が今後の課題として浮かび上がった。 上記の研究の成果は、現在印刷中の編著書の一章として刊行される予定である。また2020年度の国内外の学会では、その成果について口頭発表を行う予定である。
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