本研究では、タイ北西部に位置し、カレン人を主とする約4万人の難民が暮らすメラ難民キャンプと、第三国再定住地(オーストラリア)において、主として映像撮影を通したフィールド調査を実施した。そして、難民キャンプで生まれ育ち、祖国ビルマを知らない若い世代の難民たちは、どのように日常生活を送り人々の関係性(家族間、カレン同士間、カレン以外の人々との間、世代間)を形成しているのか。また第三国定住したに難民たちは、自身と定住地社会との間で自らのアイデンティティにどのように折り合いをつけ、社会関係を形成しているのかを考察した。 さらに、地域研究における映像表象に関する考察を行った。具体的には、難民関連の既存の映像を閲覧・分析し、難民に関する映像表象とその変化過程を踏まえた上で、地域研究への学術的貢献としてどのような映像をめざし得るのかを考察した。その表象の可能性と限界を考慮した上で、難民に関する映画制作を行った。また、上映会場での当時者同士による討論会の映像記録と考察を行った。さらに、山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーにて、難民に関する文献調査及び映像分析調査を行った。二年目には、これまで撮り続けてきた映像をまとめ『OUR life-夢の終わり』、滞日ビルマ人コミュニティの高田馬場で上映し、上映後は、大学生や教員をむくめたディスカッションを行った。そして、三年目には、それらの成果を、共著『越境の平和学―アジアにおける共生を和解』の第8章「映像平和学への挑戦―カレン難民の越境と共生」にまとめ発表した。
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