研究課題/領域番号 |
17K02016
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
倉島 孝行 京都大学, 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科, 研究員 (20533011)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自然資源管理 / 熱帯林保全 / 国際開発援助 / 国際機関 / 環境人権基準 / 途上国 / 東南アジア / カンボジア |
研究実績の概要 |
本研究は、国際機関等が行ってきた環境保全支援事業がその当初の目的に反して逆効果を生んできた仕組みを解明し、同時に今後の支援改善に資する是正策を示すことを目的とする。特に東南アジアのカンボジアを例に、世界銀行などの国際機関が過去に同国政府とともに実施(しようと)した熱帯林管理関連事業に照準、それぞれの仕組みや実施過程、結末を明らかにし、それらが現地の土地利用や森林構造に与えた(悪)影響について示す。その上で、その教訓を強調しつつ、各利害関係者が現実に受け入れ可能な是正策を文理の研究アプローチから導き出し、提示することを目指す。 初年度の2017年度は、理系の2つの手法を使った作業と調査に着手し、実際に成果を上げた。まず地理情報学の手法を用い、衛星写真の判読を行い、調査地域の森林・土地利用変化図を作成した。つぎに生態学の手法を用い、森林構造の変化・不変化を明らかにする調査に着手した。この調査では、過去に行われた別の森林調査の場所や結果を入手し、実際に現地を踏査して各現状を確認、過去のデータと比較するための最新情報を得た。 以上の作業・調査により、前者の図からは森林・土地利用に関わる複数年分の経時変化を明らかにすることができた。一方、後者の現地踏査からはその複数年間にどれだけ森林消失・農地拡大が進んだのか、その実態を把握・記録することができた。 このほかに文系の作業に当たる国際社会と国際機関、現地政府の諸政策・諸動向調査についても開始した。この調査は全研究期間を通して実施予定であるが、本年度は入手済みの過去の諸政策、諸動向に関わる情報の整理とその内容の精査、国際社会・国際舞台での最新の諸展開の捕捉、調査地域の森林・土地利用に関わる現地政府の最新政策動向の把握などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が2017年度に計画していたのは、以下の3つであった。1)地理情報学チーム(連携研究者と代表者ほか)による調査地域の森林・土地利用に関わる経時変化図の作成、2)生態学チーム(連携研究者と代表者ほか)による調査地域の森林の林相や林分に関わる経時変化の把握・解明、3)代表者による国際機関と現地政府の過去の各動向や政策展開に関わる文献レヴュー等に基づく調査である。 このうち1)では、2)と3)の調査・研究の遂行に必要な2つのタイプの森林・土地利用図を作成することができた。2)の調査用には17年間分に及ぶ図を、3)の研究用には15年間分に及ぶ図を作成した。前者は森林調査のための全プロットの位置情報を含み、後者は現地政府と国際機関の政策展開の理解に有益なゾーニング情報を含んだ。 2)に関しては当初、5~10地点程度の現地プロット調査を想定していたが、別研究グループの好意により昨年度、かつて同地域で実施された森林調査の情報も入手することができた。そこで、現地踏査のためのプロット数を29地点に増やし、実際に25地点の現状を確認・記録することができた。 3)も当初、入手済みの過去の諸政策などに関わる情報の整理とその内容の精査を中心に進める予定だった。しかし、その作業だけに留まらず、国際社会・国際舞台での最新動向の捕捉、調査地域の森林・土地利用に関わる現地政府や国際機関の最新政策の把握まで進めることができた。 以上の諸成果を考慮し、2017年度の本研究の活動状況を、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、以下のような各調査の実施を計画している。a)文系の研究者である代表者らによる参与観察と聞き取りに基づく現地社会の概要の把握調査、b)同様に代表者らによる聞き取りに基づく現地社会に関する詳細情報の把握調査、c)理系の連携研究者らの調査チームによる森林プロットの林分構造に関わる捕捉調査、d)代表者らによる文献レヴューと聞き取りに基づく国際機関ならびに現地政府の諸動向の追跡調査である。 このうち、基本的にc)とd)は、2017年度に行った調査の継続、もしくは掘り上げという位置づけで行うものである。具体的にc)では、2017年度調査において森林消失の面的な実態を広く確認したので、2018年度は各森林プロット内の劣化の現状などについて捕捉する調査を計画している。一方、d)では引き続き、過去と現在の諸動向を、広範に掘り下げる調査を行う予定である。 これに対してa)とb)では、まず地域社会における生業・森林利用の実態、複数村落の社会構造、これらの点に関するおおよそを把握する聞き取り調査を行った上で、それぞれの結果を精査し、詳細に聞き取るべき項目を決定、実際にそれらの項目について最適なインフォーマントから聞き取り調査を行う予定である。 なお、調査地を置くカンボジアでは2018年度、総選挙が実施される予定である。したがって、政情の不安化に伴い、治安の悪化が起こるなど、不測の事態が発生することも考えられる。現在、上記の各調査の実施を計画しているが、安全を最優先とし、臨機応変に研究を進める所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度は次年度同様、多額の旅費が必要になると考えられたので、実際にそれを計上した。しかし、海外現地調査を予定していた連携研究者などが校務で多忙を極めていたため、予定が変更になった。次年度はその連携研究者などを含め、再び合同調査をする計画であるので、2017年度分を次年度(2018年度)分に廻す形で算出・請求した。
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