研究課題/領域番号 |
17K02020
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
藤井 勝 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (20165343)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地方 / 地域社会 / タイ / 東南アジア大陸部 / 基層社会 / グローバル化 / 社会学 |
研究実績の概要 |
本研究は、とくにタイの「地方的世界」の伝統であるムアン(muang) 原理がグローバル化のなかで経験する変容を、タムボン(tambon)、およびその自治体(ongkaan borihaan)に焦点を当てて明らかにする。そのため後進地域の東北部とバンコク周辺に調査地(アムプー=郡レベル)を設定して比較研究をする。本年度の調査を通じて、チェンユーン郡(東北部マハーサーラカーム県内)とナコーンチャイシー郡(中部ナコーンパトム県内)を調査地にすることは確定した。対象となるタムボンは、前者ではナートーン、後者ではワットラムットである。予備調査によって以下が明らかになった。 (1)タムボンは、幾つかのムーバーン(区)ないしバーン(むら)から構成されるが、そのまとまりには歴史的な背景がある。チェンユーンでは区・むらは本村-分村の関係を内包し、ナコーンチャイシーでは「1タムボン・1寺院」の傾向が根強い。(2)タムボン自治体は業務が拡大し、組織整備もなされ、職員数の増加や教育水準の高まりが進む。幹部職員は大学卒であるほか、ワットラムットではナヨック(長)が地元出身の大卒者で、ビジネス経験者もあり年齢も若いので、活力のある組織に見える。一方で、アムプー役場の役割が低下していないことも強調される。タムボン自治体の事業の範囲・規模には制限があり、その事業等はアムプー役場の管理下にある。アムプー役所とタムボン自治体は決して対抗関係ではなく、協調・協力の関係にあると言われる。(3)タムボン自治体は現在、改革期にある。複数タムボン自治体を1つの市自治体(テーサバーン)に再編・統合するという政治的な決定がなされた。2019年2月までに実施予定の総選挙後に実施の予定である。地方の大きな関心である。20世紀末より地方自治の強化のためタムボン自治体を軸に進んできた「地方的世界」の変化は、現在岐路にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)本年度の予備調査によって、研究計画の段階で予定していた調査地を対象にして本研究の調査研究を実施できることが明確になったからである。現地での調査協力体制もしっかりしているので、充実した現地調査が期待できる。(2)調査地の「地方的世界」は極めて特色があることが判明したので、その特色の解明によって本研究の主題を積極的追究できるからである。とくにナコーンチャイシー郡は、古都アユタヤにも、現在の首都バンコクにも近い畿内の「地方的世界」の特徴を豊富に有している。タイでは「1バーン(むら)に1ワット(寺)」が一般的とされるが、すでに言及したように、ナコーンチャイシー郡には「1タムボンに1ワット」という特徴があるので、地域社会内でタムボンのもつ凝集性は近年強まったのではなく、歴史的な特性であり、バーン(むら)→タムボン→アムプー(郡)という地域構造のなかに固有の特徴が生じている。本研究の代表者がこれまで主に調査対象地としてきたタイ東北部と比較することによって、「地方的世界」の多様で個性的なあり方を描き出すことが可能である。(3)20世紀末より強化されてきたタイのタムボン自治体が統合・再編されようとしていることは、グローバル化のなかで、まさに現在、「地方的世界」が少なくとも地方行政・地方政治的な側面で大きく変容しつつあることを示している。本研究の実施期間なかでその変容の形やプロセスを解明できる機会を与えられているために、本研究はより大きな成果を収めることが期待できるからである。
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今後の研究の推進方策 |
(1)現地調査では、行政サービス、自治活動、経済活動、社会集団・ネットワーク、宗教儀礼、祭礼、地域アイデンティティなどが、アムプー内の各レベル(アムプー→タムボン→バーンあるいはムーバーン)においてどのように編成されているかを、個別的かつ具体的に調査することに努める。特に、タムボンが「自治体」化した結果として、タムボンの機能や役割が強化された側面を明確にして、この間の「地方的世界」の内部構造の変化の意味を明らかにする。(2)現在のタイの政治動向は興味深いが、中央政治がかなり流動的であり、今後の展開に不確実な面があるので、タムボンの再編が実際にどの時期に実施されるかは確定していない。このため、その再編プロセスの分析に過度に重点は置かず、現在までの展開を中心にしたアプローチに心がける。(3)同時に、タイにおける「地方的世界」の変容を、東南アジア大陸部の「地方的世界」の展開の中に位置づけて理解するために、隣接国(とくにミャンマーやベトナム)の「地方的世界」に関する資料の収集、現地調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、とくにタイの現地調査でさまざまな支援を得ることができたので、人件費や交通費(車代)などを節約できたことによる。平成30年度からはタイ以外の国で現地調査を実施する必要があり、その調査をより充実した内容にするためには予定より多くの経費がかかると予想されるので、次年度使用に移した額は、おもにこの面での支出に充当する計画である。
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