研究課題/領域番号 |
17K02020
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
藤井 勝 神戸大学, 人文学研究科, 名誉教授 (20165343)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地方 / 地域社会 / 東南アジア大陸部 / 基層社会 / グローバル化 / 社会学 / タイ / ミャンマー |
研究実績の概要 |
今年度は新型コロナ拡大により、現地調査等を全く実施できず、研究は進まなかったが、以下の研究の実績があった。なお研究期間延長が承認されたので、次年度まで研究を継続して研究課題を深めたい。 第一に、タイとくに東北部については、前年度までの現地調査から解明されてきた現代的展開の背景にある、歴史的な構造や変動を探るべく文献・資料研究を進めた。研究代表者は東北部の地方社会をムアンの視点から論じた論文等をすでに著しているが、今年度はポンサーウダーン(王統年代記)等の歴史文献の解読・分析を通じて、「地方的世界」を掘り下げた。論文等で今後成果を示したいが、歴史的位相と現代的位相を重ね合わすことにより、現代の「地方的世界」の構造や変動がより鮮明になった。 第二に、タイの研究を東南アジア大陸部の研究へとつなげるため、前年度からミャンマーのシャン州タウンジー県、とくにホーポーン郡に対象に、比較研究を開始したが、今年度はコロナの拡大により現地調査が困難になったため、対応策を進めた。つまり文献・資料の研究を深めるとともに、現地の研究者に委託して1村落(全世帯)のアンケート調査を実施する計画を進めた。当郡はパオ自治区にあるので、少数民族と「地方的世界」の関係も重視した質問票を用意したが、調査設計が終わり、調査票原版も完成し、パイロット調査を目前にした段階で今のクーデターが発生し、アンケート調査は中断・延期中である。 第三に、東南アジア大陸部の「地方的世界」に関する研究成果の検討を進めた。科研により実施した前回の研究より10年以上が経過したので、この間の関係分野の研究成果を吸収しながら研究を推進するためである。とくにジェームズ・C・スコットの「ゾミア」論は学界に大きな影響を与えたので、これらの議論を踏まえて、この地域の「地方的世界」の歴史的文化的な特質、そして研究の視点を見直すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究はもともと本年度で終了の予定であったが、以下のような理由によって遅延しているため、実施期間の1年間の研究期間延長を申請し、承認されたところである。 理由の第一は、2018年度において、研究代表者が勤務先の職務の諸事情により予定していた現地調査、とくにミャンマーの現地調査を実施できなくなり、主にその部分を次年度(2019年度)に移さざる得なくなったことである。第二は、2019年4月に研究代表者が腰椎の疾病を発症して約3ヶ月にわたり外出困難になったため、2019年度に計画した現地調査を十分に実施できず、前年度からの研究の遅れを挽回できなかったことである。第三は、2020年3月より現在まで続く新型コロナウイルスの拡大によって現地調査等を実施できないため、さらに研究の遅延が生じていることである。 本研究は現地調査に依存するところが極めて大きいため、以上のような問題の発生は研究の進捗に多大な影響を与えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究を当初の計画通りに実施するためには、新型コロナウィルスの終息、そしてミャンマーにおける政治的平和の回復が不可欠である。しかし、当面はその見通しが立たないので、文献研究などを強化する方策をとりたい。またリモートで対応できる部分については可能な限りそれを利用したい。 そして、新型コロナウィルスのワクチン接種の進行によって移動制限が解除されれば、早急にタイなどで現地調査を実施し、また研究集会を開催することを目指す。 ただしミャンマーについては、コロナ問題が解決しても、クーデターが終息しない限りはアンケート調査や現地調査の実施は困難なので、先を見通しにくいのが現状である。しかしながら、ミャンマーの「地方的世界」の研究は文献や資料の収集と検討、予備調査、アンケート調査の準備などをすでに相当に進めているので、これから方向転換してベトナムなど他国で比較研究をすることに切り替えることは非常に難しい。ミャンマーの研究を深めるべきと考えており、学術的にもそのほうが意義があるものと考えている。今後の情勢を見ながら様々な方策を検討し、臨機応変に対応したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」欄で記した理由によって研究が遅れているので、本年度は助成金の使用が予定どおりには進まなかったためである。このため、本年度は研究期間の最終年度であったが、研究実施期間の1年延長を申請し、それが承認された。次年度使用額については、「今後の研究の推進方策」欄に記した内容にしたがい、具体的にはタイでの現地調査、ミャンマーでのアンケート調査と現地調査(聞き取りなど)、さらに日本での研究集会の実施などの費用に充当する計画である。
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